言語聴覚研究 12巻2号 (2015年6月)

シンポジウム 言語聴覚士のあるべき姿の再考—小児言語聴覚障害領域

座長記 山下 夕香里
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 第15回の言語聴覚学会では,半田理恵子会長のもとに集まった熱い志を持つ準備委員の皆さんの長期にわたる討議からシンポジウムのテーマが決められた.有資格者の人数も毎年着実に増加し,2万人を超えるという大きな組織になってきた今,言語聴覚士(ST)としてのあるべき姿を再考するテーマは実にタイムリーなものと考えた.

 小児領域では,発達,聴覚,構音など個々の障害により解決すべき課題は異なるが,「コミュニケーションがしっかり取れるように支援していくこと」や「子どもの持っている力を最大限伸ばして,子どもが社会の中でしっかり生きていくことを支えること」などはSTに共通して求められるテーマではないだろうか.特に言語聴覚療法を必要とするご本人だけでなく,ご家族や周囲の人々の支えが大切であり,STとしてこれらの方々と密接にかかわりながら支援していく姿勢が求められている.

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 1970年代から今日までの小児難聴臨床を概観し,併せて筆者の言語聴覚士としての経験に基づいて,医療領域における難聴児指導と家族支援について検討し,今後の臨床教育の在り方について展望を試みた.本論は,1)医療・療育における難聴児指導の歴史,2)言語聴覚士による聴覚障害臨床の現状,3)言語聴覚士による小児難聴臨床と言語指導,4)医療における全人的支援(療育),5)小児難聴臨床に携わる言語聴覚士の対人支援職の基盤,6)医学教育に学ぶ,7)臨床家の生涯発達と難聴児支援,8)小児領域の言語聴覚士における専門性の継承とキャリア形成,9)小児難聴領域の言語聴覚士の職能,で構成した.今後,小児難聴領域の職能は,先進医療の開発に対応した専門性の高度化と,地域支援に根差したリハビリテーションを推進する専門職としての展開が期待される.そこで,言語聴覚士には難聴児の言語聴覚機能の発達支援,および児と家族の生活やQOL向上に向けた臨床教育と現職研修のいっそうの充実が要請されているといえよう.

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 わが国で小児の摂食嚥下障害に言語聴覚士(以下,ST)が携わるようになった経緯を解説した.その背景を基に,発達的変化が大きく,環境的影響の強い小児期の摂食嚥下障害へのアプローチは,子どもの発達を包括的に捉え摂食嚥下機能の学習を支え,母親を中心とした子どもにかかわる人々との関係性や環境を整えることが必要であることを述べ,STとしての摂食嚥下支援の考え方とその在り方について提言した.その内容は,①発声発語器官でもある摂食嚥下器官の機能を科学的に理解してアプローチする理論とテクニックを高める,②食べる場面での認知・言語・コミュニケーションに視点を持つ,③話しことばの準備として食物を使って口腔機能へアプローチする,④他職種と連携しコーディネーターの役割を担う,ということを挙げた.

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 筆者は乳幼児健診でことばの遅れがみられるものの,まだ障害とは言い切れない1歳から3歳の幼児とその保護者の支援に当たっている.この時期の支援は,個別指導ではなく環境改善が基本である.その後,知的障害や発達障害が徐々に明らかになる子どもたちも多いが,彼らへの発達支援は,医学モデルではなく生活モデルに即して行われる必要がある.そのために言語聴覚士(ST)に必要なのは,STとしての専門性を基盤に,身体発達や心理発達の知識を広く持ち,保護者や地域の保健師,保育士などを含む多職種と協働して,子どもの育ちを地域で長く見守るという姿勢である.

 STの業務は,①対象者に対する直接的指導,②言語発達が促される環境調整,③STについての社会的啓発活動であるが,子どものことばやコミュニケーション支援に当たる職種としてのSTの社会的啓発活動が強く求められていることを強調しておきたい.

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 音韻性失名詞は臨床で経験することは稀だが,確立された症候概念であり,近年では様々な書籍で散見される.その1例に対し,発症からの経過,特に呼称について詳細な分析を行った.症例は,発症2か月では理解力が低下しており,呼称では語性錯語・音韻性錯語が出現し,ウェルニッケ失語に該当した.発症8か月では理解力が改善し,喚語困難が中核症状として残存した.復唱は良好だが,呼称時のみに音韻性錯語や音断片などの音韻性の誤りが多く出現し,音韻性失名詞に近い病態となった.先行研究との比較検討を行い,他の失語型から音韻性失名詞に緩徐に移行していくタイプの存在が示唆された.また,発症から経過の中で理解が改善を示すこと,呼称成績そのものより錯語の内容が変化していく傾向がみられた.経過を踏まえると障害メカニズムが必ず一致するとは限らず,音韻性失名詞の中でも多様性があることが示唆された.

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 終末期の神経難病患者はコミュニケーションの維持が困難なことが多く,言語聴覚士の果たす役割は重要である.今回,終末期のシャイ・ドレーガー症候群(以下,SDS)の1例を経験した.症例は62歳,女性.実用的な発話は困難で,極めて重度の眼球運動障害,複視,パーキンソニズム,失調症状などを認め,ADLは全介助であった.口述式文字盤と透明文字盤を組み合わせた変法を導入し,意思表出は可能となったものの,日常での実用的な方法とはならなかった.そこで,症例の言葉を転記した「ひとりごと」ノートを自室に設置した.その結果,コミュニケーション範囲が拡大し,Health Utilities Index(以下,HUI)でも向上を認めた.また,表出が困難となった後も,「ひとりごと」ノートを思い出として活用した.以上から,終末期のSDS例に対するこれらの拡大代替コミュニケーションアプローチ,およびHUIによる評価の有用性が示唆された.

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 化学放射線療法と頸部郭清術により重度の嚥下障害を呈した下咽頭癌例に嚥下訓練を施行したので,経過を報告し,改善を認めた舌根部の後退運動と食道入口部の通過について検討する.症例は53歳男性,下咽頭癌(T3N3M0)に対し,化学放射線療法が施行された.下咽頭部の腫瘍は消失したが頸部リンパ節病変は残存しており,根治的頸部郭清術,大胸筋皮弁再建術,神経移植による舌下神経再建術が施行された.摂食訓練と基礎的嚥下訓練を行い,舌根部の後退運動と食道入口部の通過に改善を認めた.手術65日後の標準ディサースリア検査で舌の運動範囲が改善し,舌下神経麻痺の改善も認めた.本例に舌下神経再建術が施行されたが,症状の改善時期が2か月と早い点,手術2年後に左舌の萎縮を認めた点より,舌根部の後退運動と食道入口部の通過の改善は,舌の訓練が効果的であった可能性が考えられた.舌下神経再建例に対し,術後早期のリハビリテーション介入の必要性が示唆された.

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 副咽頭間隙腫瘍は比較的稀な疾患であるが,外科的治療の結果,下位脳神経障害による嚥下障害を生じることがある.今回,副咽頭間隙腫瘍摘出術後に重度嚥下障害をきたした症例に介入する機会を得たので報告する.

 症例は50歳代,女性.神経線維腫症Ⅰ型で全身に神経線維腫が多発しており,縦隔腫瘍摘出術後の右声帯麻痺が指摘されていた.左副咽頭間隙腫瘍摘出術後に重度嚥下障害が出現した.咽頭期嚥下の惹起遅延,喉頭挙上範囲縮小,咽頭収縮の減弱,鼻咽腔閉鎖不全,食道入口部開大不全が指摘された.術後7日目より嚥下訓練を開始.間接訓練,頸部回旋,息こらえ嚥下の指導などを行い,術後約2か月で経口摂取可能となった.

 本症例では,嚥下器官の機能評価より抽出された問題点に対して嚥下訓練を立案し,定期的な嚥下造影検査に基づいて施行した結果,誤嚥による合併症を回避しつつ経口摂取へ移行できた.

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投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 ビルの窓から公園の樹木の緑が日増しに濃くなっていくようすを眺めていますと,人間社会に何があっても変わらない自然の営みの力強さに心打たれます.

 さて今号にはシンポジウム「言語聴覚士のあるべき姿の再考—小児言語聴覚障害領域」が掲載されています.少子高齢社会にあって,現在の言語聴覚療法の対象は高齢者が多くを占めていますが,小児言語聴覚障害領域でも言語聴覚療法のニーズが高まっています.すなわち小児言語聴覚障害領域では障害の重複化,複雑化,多様化が顕著であり,また近年の生活・社会環境の変化が療育にさまざまな影響を及ぼし,言語聴覚士の専門的介入の重要性が増しているといえます.シンポジウムでは小児言語聴覚臨床において豊かな経験と優れた知識・技術を備えられた廣田栄子氏,中川信子氏,高見葉津氏により貴重な講演がありました.本シンポジウムの開催意図は,若手言語聴覚士への臨床理論・技術の伝承であり,それに応えうる充実した内容の聞きごたえのある講演でした.

基本情報

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言語聴覚研究
12巻2号 (2015年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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