日本内視鏡外科学会雑誌 25巻4号 (2020年7月)

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◆要旨:【緒言】内視鏡下鼠径ヘルニア修復術は術後疼痛が軽度で回復が早いとされるが,長期予後については報告が少ない.今回筆者らは,アンケート調査による鼠径部切開法との予後の比較を行った.【方法】鼠径ヘルニア修復術を行った115症例にアンケート調査を行い,回答が得られた50例を対象として,短期・長期予後を比較検討した.【結果】内視鏡手術の52%,鼠径部切開法の64%で術後疼痛なしと回答を得たが,内視鏡手術の1例では現在も疼痛が続いていた.つっぱり感や異物感に大きな差は認めなかった.【考察】内視鏡下修復術の利点とされる疼痛の軽減は長期予後においては明らかでなく,鼠経ヘルニア修復術におけるアプローチ選択は慎重に検討する必要がある.

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◆要旨:【目的】神奈川県下の施設における高齢者胃癌患者に対する腹腔鏡下胃切除術の現状を明らかにした.【方法】第47回神奈川消化器外科研究会で実施したアンケート調査をもとに高齢者胃癌患者の腹腔鏡下胃切除術の治療方針,治療成績の現状を解析した.【結果】高齢者の手術決定には併存疾患の重症度(91.7%),performance status(87.5%)が重視され,周術期管理には口腔ケア(62.5%),リハビリテーション(58.3%)が多く行われていた.高齢者群と非高齢者群を比較すると上部胃癌に対する胃全摘術施行率(%)が低く(71.4 vs. 80.8, p=0.0466),Clavien-Dindo分類Grade 3以上の合併症発生率(%)(9.6 vs. 6.5,p=0.035)および術後在院死亡率(%)(2.2 vs. 0.2,p=0.000)が有意に多く,自宅退院割合(%)が低かった(89.0 vs. 98.1,p=0.001).【結論】各施設で様々な工夫がされているものの高齢者胃癌患者に対する腹腔鏡下胃切除の合併症発生率・術後在院死亡率は高く,手術適応,術式選択,周術期管理などをさらに改善する必要がある.

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◆要旨:[背景]腹腔鏡下スリーブバイパス術(LSG-DJB)は高度肥満症に対して高い減量,血糖改善効果を有する.[目的]LSG-DJBの安全な実施に施設内に集中治療室(ICU)が必須かを検証する.[方法]麻酔リカバリー室(PACU)を有し,ICUを有さない単一施設において,LSG-DJBが行われた251例を対象に術後早期,晩期合併症を抽出した.[結果]全例手術室で抜管し,PACUに短期滞在後,一般病棟に帰室した.再挿管例はなかった.早期合併症は13名(5.2%),晩期合併症は8名(3.2%)に発生した.提携病院ICUへの患者搬送例,死亡例はなかった.[結論]経験豊富なチームのもとで,ICUに準じた管理ができる体制を整えていれば,LSG-DJBの安全な実施にICUは必須ではない.

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◆要旨:[背景]内視鏡外科手術を含む外科領域では抗血栓薬(ATT)周術期管理のエビデンスに基づく指針は示されていない.[方法]過去5年間の日本内視鏡外科学会におけるATTおよび内視鏡外科手術に関連する発表をオンライン検索を用いて抽出し動向を解析した.[結果]抽出61研究はすべて単施設後ろ向き研究であった.最初の4年間では平均5題の発表であったが,2018年に発表数は41に大幅に増加した.2018年の発表では高難度手術の検討が2/3を占めた.周術期管理法ではヘパリン置換が41%と多いが,抗血小板薬での術前アスピリン継続も32%みられ,いずれも出血に関わる安全性が示されていた.[結語]内視鏡外科手術における周術期ATT管理は依然として施設間でのばらつきが大きい.有効かつ安全な周術期管理の指針作成に向けた多施設共同研究の実施が望ましい.

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◆要旨:患者は78歳,男性.約1年8か月前に腹部大動脈瘤に対して施行した鼠径部切開法によるステントグラフト内挿術(EVAR)の術後から右鼠径部の膨隆を自覚していた.右鼠径部の手術痕外側にピンポン玉大の膨隆を認めた.腹腔鏡下に観察したところ,右下腹壁動静脈の外側にヘルニア門を認めたが,ヘルニア囊は通常の鼠径管方向ではなく腹壁外側に向かっており,鼠径部の切開により鼠径管後壁と腹壁が脆弱になって生じた腹壁瘢痕ヘルニアと考えられた.TAPP法に準じて腹膜切開,腹膜前腔剝離,メッシュ留置,腹膜閉鎖を行った.腹腔鏡下手術は観察と治療に有用であった.EVAR術後に発症した鼠径部の腹壁瘢痕ヘルニアは稀であり報告する.

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◆要旨:患者は18歳,男性.高度な側彎を伴っていた.嘔吐を主訴に来院し,CT検査・上部消化管造影にて上腸間膜動脈症候群(superior mesenteric artery ; SMA症候群)と診断した.保存療法では再発を繰り返すため手術の方針とした.腹腔鏡下でTreitz靱帯から20cmの空腸を切離し,Roux-en-Y法で再建した.2か所の吻合は自動縫合器で行い,挿入孔は腹腔内で縫合した.術後7日目には固形物摂取が可能となり合併症なく退院した.SMA症候群に対する低侵襲手術として腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術の報告は増えているが,脊柱側彎症という脊柱変形が背景にあっても安全に施行可能であった.

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◆要旨:患者は19歳,男性.主訴はなし.健康診断での胸部X線検査異常の精査のため,近医で上部消化管内視鏡検査が施行され,胸部下部食道に巨大粘膜下腫瘍を認め,当院紹介となった.画像検査で下部食道壁外に突出する最大80mm径の腫瘍を認めた.腫瘍は下部食道を全周性に取り囲む形態で存在していた.平滑筋腫を強く疑ったが,悪性の可能性も否定できないため,手術による切除の方針とした.手術は左下半側臥位の胸腔鏡下で行った.腫瘍と周囲臓器との境界は概ね疎な結合織であり,剝離は比較的容易であった.食道と腫瘍の剝離を鋭的に進め,食道を取り囲んだ腫瘍は,結果的に馬蹄状に摘出可能で,最後に筋層との由来となる腫瘍茎部を同定し食道外膜・固有筋層を一部切除する形で摘出した.食道壁欠損部は縫合閉鎖した.病理組織学的所見より食道平滑筋腫と診断した.現在,術後1年経過し無再発,無症状である.胸腔鏡下アプローチは,全周性大型食道平滑筋腫に対しても有用な術式と考えられたため,文献的考察を加え報告する.

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◆要旨:患者は60歳,女性.心窩部痛を自覚し近医を受診し,造影CT検査で十二指腸水平脚に接する50mm大の低吸収域を認めたため当院へ紹介となった.正中弓状靱帯圧迫症候群に伴う下膵十二指腸動脈瘤破裂による血腫と診断し,緊急で選択的動脈塞栓術を施行した.3か月後に患者の同意のもと,膵十二指腸動脈領域の代償的血流増加解除目的に,腹腔鏡下正中弓状靱帯切離術を施行した.腹腔鏡下超音波を併用し,良視野のもと総肝動脈や脾動脈など主要血管を剝離露出せずに確実な正中弓状靱帯切離が可能であった.フォローアップCT検査では,腹腔動脈起始部の狭窄所見は残存なく動脈瘤再発もなく経過している.

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◆要旨:患者は55歳,男性.健診で食道の異常を指摘され近医を受診した.上部消化管内視鏡にて食道扁平上皮癌の診断で,2016年1月に当院を受診した.胸部中部食道癌stageⅠの診断で同年,胸腔鏡下食道亜全摘術を行った.最終病理はstageⅠ〔Mt,T1b(SM),pN0,M0〕であった.術後経過は合併症なく良好であった.術後1年5か月,診察時に第9肋間前腋窩線上の12mmポート挿入部に一致して径3cm大の隆起を認め,造影CTでは肋骨の骨破壊像を伴う腫瘤を認めた.針生検で扁平上皮癌細胞を認め,食道癌のポート孔再発と診断した.他に転移を認めなかったため,胸壁腫瘍切除を施行した.病理学的には食道癌と同様の組織構造であった.術後,5-FU+CDDPの補助化学療法を行い,初回手術後3年9か月,再手術後2年4か月の現在無再発生存中である.本邦では原発性肺癌や結腸癌肺転移に対する胸腔鏡下肺切除術後にポート孔再発をきたした報告は数例存在するが,検索しえた範囲で食道癌術後の報告例は1件のみであった.

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◆要旨:縦隔に発生するCastleman病は他の縦隔腫瘍との鑑別が困難であり,外科的摘出されることが多い.切除例の報告では多くが易出血性であり注意が必要である.患者は18歳女性で,胸部CTにて気管右側から前方に4.0×2.5cmの腫瘤影を認め,3D-CTにて腫瘤と大動脈〜右鎖骨下動脈の間に異常血管を認めた.異常血管をクリップし,完全胸腔鏡下に腫瘤を摘出しえた.病理組織学的に硝子血管型Castlman病と診断した.1983〜2018年までの期間で医学中央雑誌およびPubMedにて検索しえた範囲では,縦隔・肺門に発生し,摘出術を施行した症例は119例報告されていた.Castleman病の腫瘤は異常血管を伴い血流が豊富であることが多く,特に胸腔鏡下手術においては慎重な術前評価と出血対策が必要である.

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◆要旨:患者は63歳,男性.食道胃接合部から5mm離れた胃穹隆部前壁に2cm大の壁内発育型消化管間葉系腫瘍(GIST)を指摘された.従来の低侵襲外科手術では噴門機能の温存が困難と判断し,ロボット支援下経皮的内視鏡下胃内手術を行った.胃壁を腹壁に固定後,12mmバルーンポートを3か所に挿入した.Trocar-in-trocar techniqueを用いてda Vinci Xi Surgical System(Intuitive Surgical, Inc. Sunnyvale, CA)をドッキングし,カメラと2本のロボット鉗子を使用した.経胃的に腫瘍を全層で局所切除,摘出し,胃壁欠損部を縫合閉鎖した.手術時間295分,出血量12ml,術後合併症なく術後8日目に退院とした.内視鏡手術支援ロボットを使用することで,噴門近傍前壁の壁内発育型GISTを経皮経胃的に安全に局所切除できる可能性が示唆された.

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◆要旨:腹腔鏡補助下脳室腹腔シャント術は成人では広まりつつあるが,小児の報告は未だ少ない.当科で施行した5例の手術手技の要点を報告する.まず,体格の小さい小児の周囲に多数の人員・機材を配置するため,互いに干渉しないよう注意が必要であった.初回手術では2ポート,再建時など腹腔内の癒着がある場合は単孔式3ポートとした.新生児ではスコープ・鉗子ともに臍部ではなく側腹部から挿入した.皮下を通したパッサーは,直接腹腔内へ挿入した.シャントチューブは屈曲しないように鉗子で誘導し,シャントの開通も腹腔鏡で確認した.手術合併症は認めなかった.手技の定型化により,成人と同様な有用性が示されることが期待される.

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投稿時のチェックリスト

編集後記 長谷川 傑
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 この編集後記を書いているのが5月上旬ですが,世の中は新型コロナウイルスの話題でもちきりです.このウイルスの感染者は大部分は軽症だけれども,一部の人は急速に呼吸状態が悪化し致命的になります.また無症状の患者でもウイルスを排出し,ステルス的に感染が広がる本疾患は近年話題になったSARSやMERSやエボラ出血熱などのウイルスよりも全世界に大きなインパクトを与えています.全国に緊急事態宣言が宣言され,人の接触を8割減らすという目標が立てられ,3密を避けるということで外出や就労も大幅に制限され,経済活動への影響も甚大です.学会も会議も講演会も全て中止/延期あるいはweb開催となり,私も出張が激減してある意味健康的な生活を送れるようになりました.不急の手術は行わないということで手術数にも制限がかかりましたが,悪性腫瘍をメインで扱っている当科ではまだまだ忙しい日々を送っています.日常的に医療崩壊・院内感染という言葉が飛び回り,スタッフの一人にでも感染者が出れば通常診療の継続も難しくなりますから,可能な限りの対策を講じながら感染者が出ないようにとひたすら祈るしかない毎日です.世界中で囲い込みと流通が滞ることによりマスクやガウンなども品薄になり,明日の手術にも不安を抱えています.

 我々の社会がこのような感染症に遭遇するのは久々のことで,今回のコロナウイルスの件は高度にグローバル化された世界における感染症の恐ろしさを我々に再認識させました.地震や台風などと同様にまさに“災害”と呼ぶべき状況において,PCRなどの検査体制や感染症患者に対する病床の手配など,我が国の医療の脆さも浮き彫りになっています.執筆時には自粛の効果もあって感染の広がりはやや抑えられつつあるようですが,元の日常に戻るのはかなり先になるのではという予測もあります.今後,より性質の悪いウイルスが発生する可能性もあります.今回の教訓を生かして未知の感染症に対する我々の社会の“危機管理能力”を向上させる必要があると感じました.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
25巻4号 (2020年7月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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