日本内視鏡外科学会雑誌 25巻3号 (2020年5月発行)

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症例報告

直腸憩室炎による膀胱瘻に対する腹腔鏡下根治術の1例濱田　朗子 , 池田　拓人 , 西田　卓弘 , 河野　文彰 , 武野　慎祐 , 七島　篤志 25巻3号 , 2020年5月 , pp.157-162

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◆要旨：患者は67歳，男性．下腹部痛があり保存的に加療されていたが改善がなかった．直腸憩室炎により直腸膀胱瘻を発症し，骨盤内膿瘍および直腸狭窄を伴っていた．人工肛門造設術を施行し，炎症は軽快した．慎重に経過観察を行っていたところ，炎症の再増悪を認め，人工肛門造設術後4年で腹腔鏡下前方切除にて根治術を施行した．直腸憩室による直腸膀胱瘻は非常に稀な疾患である．診断においては悪性疾患である直腸癌との鑑別が必要であり，また良性疾患であるため手術侵襲を最小限にすることが重要となる．今回，直腸憩室炎による直腸膀胱瘻に対し腹腔鏡下に根治術を施行した1例を経験したので報告する．

受傷当日に緊急で腹腔鏡下修復術を行った外傷性腹壁ヘルニアの1例福岡　裕貴 , 田上　修司 , 辻村　敏明 , 水本　拓也 , 秋山　真吾 , 岩﨑　武 25巻3号 , 2020年5月 , pp.163-169

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◆要旨：外傷性腹壁ヘルニア嵌頓に対して緊急腹腔鏡下修復術を行った1例を経験したので報告する．患者は63歳，男性．高さ1mの脚立から落下し，地面に立てられた鉄パイプで左側胸部を打撲した．来院時，左側胸部に打撲痕と5cm大の膨隆を認め，腹部造影CT検査で内外腹斜筋，腹横筋筋膜が断裂しており，皮下に小腸が脱出していた．外傷性腹壁ヘルニア・小腸嵌頓と診断し緊急手術を行った．腹腔鏡で観察したところ，腹腔内臓器に明らかな損傷は認めなかった．左上腹部に腹壁筋の断裂を認め，腹腔鏡下に各々を縫合して修復した．腹腔鏡下手術は腹部鈍的外傷において臓器損傷の検索と同時に修復術を行うことができ有用であると考えられた．

下行結腸粘膜下腫瘍に対し腹腔鏡下漿膜筋層切開法にて腫瘍切除を行った1例尾花　優一 , 金平　永二 , 高橋　昂大 , 金平　文 , 谷田　孝 , 佐々木　一憲 25巻3号 , 2020年5月 , pp.170-176

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◆要旨：患者は66歳，女性．便潜血陽性にて下部消化管内視鏡を施行したところ，下行結腸に長径2cmの粘膜下腫瘍が発見され，患者が切除を希望したため外科治療目的で当院に紹介された．超音波内視鏡検査にて固有筋層由来の粘膜下腫瘍と診断され，腫瘍が腸間膜対側に局在していたため，腹腔鏡下に漿膜筋層切開法（serosal and muscular layers incision technique；以下，SAMIT）による腫瘍切除術を行った．術後経過良好で，第6病日で退院となった．病理結果は神経鞘腫で，切除断端は陰性であった．大腸粘膜下腫瘍に対するSAMITによる手術例は本報告が第1例目と思われる．

直腸癌術後局所再発との鑑別を要し腹腔鏡下手術を施行したimplantation cystの1例高津　史明 , 大谷　弘樹 , 岡田　尚大 , 市原　周治 , 矢野　匡亮 , 溝渕　光一 25巻3号 , 2020年5月 , pp.177-183

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◆要旨：患者は77歳，男性．2年前に直腸癌にて腹腔鏡下高位前方切除術，double stapling techniqueによる吻合を施行した．術後2年の腹部CT検査で吻合部腹側に多発する囊胞性病変を認め，緩徐に増大傾向を示すため，局所再発を疑い当院紹介となった．PET-CT検査では有意なFDG集積がみられたため，直腸癌の局所再発と診断し腹腔鏡下手術を施行した．病理組織学的検査所見では悪性所見は認めず，最終的にimplantation cystと診断された．本症は消化管吻合の際に生じる稀な合併症であり，直腸癌術後の局所再発との鑑別に苦慮することが多い．今回，局所再発を疑い腹腔鏡下手術を施行したimplantation cystの1例を経験したので，文献的考察を交えて報告する．

横隔膜上食道憩室に対して腹臥位で胸腔鏡下食道憩室切除術を施行した1例秋元　俊亮 , 矢野　文章 , 西川　勝則 , 谷島　雄一郎 , 三森　教雄 , 矢永　勝彦 25巻3号 , 2020年5月 , pp.184-189

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◆要旨：患者は50代，男性．食物残渣逆流を主訴に近医を受診した．精査にて横隔膜上食道憩室と診断され，手術目的に当院紹介となった．腹臥位で胸腔鏡下憩室切除術を安全に施行しえた．食道領域手術は時代とともに開胸手術から胸腔鏡下手術，縦隔鏡下手術へと変遷してきた．さらに体位では，従来の側臥位に対して，腹臥位の有効性が食道癌の領域で報告されるようになった．一方，食道癌以外の食道手術における腹臥位の報告はいまだ少なく，今回横隔膜上食道憩室に対して腹臥位で胸腔鏡下憩室切除術を施行した症例を経験したので報告する．

子宮内容除去時の子宮穿孔に伴う絞扼性腸閉塞に対し腹腔鏡下に修復しえた1例藤原　淑恵 , 村上　仁志 , 上田　倫夫 , 長谷川　誠司 , 池　秀之 , 福島　忠男 25巻3号 , 2020年5月 , pp.190-194

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◆要旨：患者は37歳，女性，1産．経腟分娩後の1か月健診時に胎盤・卵膜遺残に対し子宮内容除去術を施行された．数時間後に下腹部痛と嘔気が出現し，翌日当院へ転院となった．子宮穿孔に伴う絞扼性腸閉塞と診断し，緊急手術の方針とした．CTでは穿孔部は同定可能で腸管損傷は限局していると考え，腹腔鏡下手術を選択した．小腸は子宮内に嵌頓していたが，牽引にて整復可能であった．子宮損傷部は縫合閉鎖した．術後経過良好で，術後6日目に退院とした．子宮内容除去術の重大な合併症として小腸損傷を伴う子宮穿孔があるが，腹腔鏡下で整復しえた症例は検索しうる限り稀であった．腹腔鏡下手術は，子宮・腸管損傷が限局している症例では，有効であると思われた．

洗剤誤飲長期経過後に難治性食道狭窄をきたした腐食性食道炎に対し腹腔鏡・胸腔鏡下に切除再建術を行った1例田邊　麗子 , 末原　伸泰 , 近沢　信人 , 堤　親範 , 吉田　真樹 , 鈴木　宏往 25巻3号 , 2020年5月 , pp.195-202

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◆要旨：患者は62歳，男性．自殺企図によるアルカリ性製剤の服用歴があった．服用5年後に通過障害の訴えで当院を受診し，内視鏡検査で食道狭窄を認めた．バルーン拡張術を1年以上にわたり行ったものの改善が認められず，腹腔鏡・胸腔鏡下での食道切除術・胃管再建術を行い，術後44日目に退院した．手術は仰臥位からの腹腔鏡操作による胃管作製を先行させ，その後胸腔鏡による食道切除・胃管吻合を行うことで手術の簡略化を図った．今回腹腔鏡・胸腔鏡下および胸腔内吻合での腐食性食道狭窄に対する症例を経験したので報告する．

術中ICG蛍光法が有用であった肝細胞癌腹膜播種の1例本庄　真彦 , 渡邊　常太 , 坂元　克考 , 高井　昭洋 , 藤山　泰二 , 高田　泰次 25巻3号 , 2020年5月 , pp.203-209

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◆要旨：患者は49歳，男性．肝S8の肝細胞癌に対し肝動脈化学塞栓術とラジオ波焼灼術を施行された．初回治療から約2年後のCT検査で計4か所の肝細胞癌腹膜播種再発を疑う結節を指摘された．根治切除可能と判断し，腹腔鏡下腫瘍切除を施行した．術中にICG蛍光法を用いたナビゲーション手術を行い，術前に指摘できなかった新規の病変を3か所認め，合計7か所の播種結節を切除した．術後約2年経過し，腹膜播種再発はなく，経過良好である．ICG蛍光法によるナビゲーション手術は肝細胞癌腹膜播種病変の特定に有用であった．

正中腹壁瘢痕ヘルニアに対するendoscopic component separation法を併施したIPOM-plusの有用性市川　英孝 , 青木　豪 , 武者　宏昭 , 亀井　尚 , 内藤　剛 , 海野　倫明 25巻3号 , 2020年5月 , pp.210-216

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◆要旨：腹壁瘢痕ヘルニア根治術は再発率の低さからメッシュを用いた修復法が選択されることが多く，近年では腹腔鏡下根治術（intraperitoneal onlay mesh，IPOM）が増加している．endoscopic component separation（ECS）法は巨大な正中腹壁瘢痕ヘルニアに対して修復が可能な術式であるが，単独では比較的高率な再発も報告されている．今回，術前に創部感染が否定しきれない巨大例と肥満合併例の2例の正中腹壁瘢痕ヘルニアに対して，ECS後の腹腔鏡下観察にて感染徴候を認めればヘルニア門の縫合閉鎖のみに留め，認めなければヘルニア門閉鎖およびメッシュ留置を行うIPOM-plusの方針とした．結果，ECS後の腹腔鏡下観察では問題となる所見を認めずIPOM-plusを付加しえた．術後2年の時点で無再発経過中である．ECSを併施したIPOM-plusはより再発率が低い術式となりうる.

Treitz靱帯近傍GISTに対し完全腹腔鏡下で切除・再建を施行した2例松田　直樹 , 田中　則光 , コルビンヒュー　俊佑 , 髙橋　優太 , 信岡　大輔 , 小野田　裕士 25巻3号 , 2020年5月 , pp.217-223

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◆要旨：Treitz靱帯近傍に発生した空腸GISTの2症例に対して完全腹腔鏡下で手術を施行した．症例1は73歳，男性．黒色便の精査中，CTで左上腹部に腫瘤を認め，近位空腸もしくはその腸間膜腫瘍が疑われ手術の方針とした．single incision laparoscopic surgery（SILS）＋1ポートで手術を開始し，Treitz靱帯から2cmの空腸に60mm大の腫瘤を認めた．完全腹腔鏡下に小腸を切除し，再建は十二指腸水平脚の軸に合わせて1ポートを追加し，機能的端端吻合を施行した．症例2は74歳，男性．スクリーニング検査のCTで空腸起始部に石灰化を伴う腫瘤を認めた．経過観察中，緩徐に増大することから手術の方針とした．4ポートで手術を開始し，Treitz靱帯から5mmの空腸に40mm大の腫瘤を認めた．完全腹腔鏡下に小腸を切除し，再建は十二指腸水平脚の軸に合わせ1ポートを追加し，機能的端端吻合を施行した．症例1，2ともにGISTと診断した．Treitz靱帯近傍の腫瘍切除に対する再建は，後腹膜に固定された十二指腸水平脚との吻合となる．完全腹腔鏡下での再建に際し，十二指腸側の血流とポート位置が重要と考えられ，当科で行った工夫について報告する．

TAPP法で根治術を行った白線ヘルニアの1例尾入　保彰 , 山口　直哉 , 加藤　祐一郎 , 向井　俊貴 , 福井　史弥 , 加藤　真司 25巻3号 , 2020年5月 , pp.224-230

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◆要旨：患者は68歳の男性で，4年前から認める上腹部の膨隆と同部位の痛みを主訴に当院を受診した．腹部CTで上腹部正中に白線の欠損と，同部位での腹腔内から皮下へと通じる脂肪組織の脱出を認め，白線ヘルニアと診断した．痛みはあったが，用手的に還納できたため，待機的に根治術を施行した．腹腔鏡で腹腔内を観察すると，一見ヘルニア門やヘルニア囊を認めなかったが，腹膜前腔を剝離するとヘルニア門を同定することができ，同部位から腹膜前脂肪の脱出を認めた．transabdominal preperitoneal approachに準じて，腹膜前腔にメッシュを留置し修復した．術後経過は良好で，術後1年が経過した現在まで，ヘルニアの再発や感染性合併症，慢性疼痛を認めていない．

手術手技

ロボット支援下幽門保存胃切除術における体腔内手縫い胃々吻合清水　芳政 , 嶋根　学 , 落合　成人 , 間室　奈々 , 郡司　崇裕 , 小笠原　利仁 25巻3号 , 2020年5月 , pp.231-237

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◆要旨：手術支援ロボットであるda Vinci^® Surgical System（DVSS）は三次元高精度画像と関節機能を有した鉗子を使用し従来の腹腔鏡下手術の技術的困難点を補完する機器である．DVSSは縫合手技において特に有用な機器となりうる．腹腔鏡下胃癌手術において幽門側胃切除術や胃全摘術は自動縫合器や自動吻合器を用いた体腔内再建法がほぼ定型化しているが，幽門保存胃切除や噴門側胃切除といった縮小手術での体腔内再建法はいまだ完全な定型化には至っていない．今回，DVSSを用いた幽門保存胃切除術における胃々再建を体腔内・手縫い吻合で施行した5例を経験したので，手技の概要と治療成績を報告する．

文献抄録

Local recurrence after transanal total mesorectal excision for rectal cancer : A multicenter cohort study 25巻3号 , 2020年5月 , pp.238

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目次 25巻3号 , 2020年5月 , pp.155

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欧文目次 25巻3号 , 2020年5月 , pp.156

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投稿時のチェックリスト 25巻3号 , 2020年5月 , pp.243

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編集後記大塚　隆生 25巻3号 , 2020年5月 , pp.244

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　「“〜にて”は江戸時代の言葉でござる．」若い頃に指導医から原稿に赤ペンでこのように注意書きをされて以降，「〜にて」を使うことを止めました．「〜にて」は本来古語ですが，現在使用して悪いわけではありません．しかし，「主訴・黄疸にて受診し，当院にて，CTにて膵腫瘤を指摘され，生検にて腺癌が検出されたため，膵癌の診断にて手術を行った．」と「〜にて」のオン・パレードではさすがに注意したくなります．「〜で」で意味は伝わりますし，「黄疸を主訴に受診し，当院でCTを撮影したところ膵腫瘤を指摘され，生検で腺癌が検出されたため，膵癌の診断で手術を行った．」と，もっと丁寧に表現することもできます．

　医師が最も「〜にて」を用いる職種であろうと思いますが，その中でも高名な先生方の文章には「〜にて」という表現が少ないように感じます．次はそういった視点でも読んでみてください．「〜にて」は遠山の金さんの「これにて一件落着」など，時代劇の中で使われてこそ生きてくると個人的には思っています．また「〜にて」を多用している投稿論文には，他にも誤字，言葉の誤用などが目立つ傾向があります．「CT撮影したところ」などの助詞が抜けた表現（「CTを撮影したところ」とすべき），血管の走行（「走行」は車などの自力で動けるものが走っていく様子を示す表現であるため，「地層の走向」と同様の扱いで「血管の走向」とすべき），改行後に一マスあけない，句読点がない，等々です．

基本情報

日本内視鏡外科学会雑誌
25巻3号
(2020年5月発行)

電子版ISSN：2186-6643 印刷版ISSN：1344-6703 日本内視鏡外科学会

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