日本内視鏡外科学会雑誌 24巻3号 (2019年5月)

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◆要旨:【目的】膿瘍形成性虫垂炎・限局性腹膜炎に対してinterval laparoscopic appendectomy(ILA)を選択する場合の治療戦略とその問題点および妥当性につき検討した.【方法】2010年8月〜2016年8月の穿孔性虫垂炎に対するemergency laparoscopic appendectomy(ELA)群73例と,膿瘍形成性虫垂炎・限局性腹膜炎に対するILA群59例の治療成績を比較検討した.なお保存療法失敗例は2例であった.【成績】ILAの達成率は97%で,ELA群/ILA群おいて,開腹移行率:2.7%/3.4%,手術時間中央値:63分/60分,出血量中央値:1ml/1ml,腹腔内膿瘍発生率:12.3%/0%,術後在院日数中央値:6日/2日,総入院日数中央値:6日/8日であり,腹腔内膿瘍発生率と術後在院日数に有意差が認められた.【結論】膿瘍形成性虫垂炎・限局性腹膜炎へのILAの治療戦略は成功率も高く,術後合併症を減少させる有効な治療戦略と考えられる.

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◆要旨:[目的]近年腫瘤形成性虫垂炎に対するinterval appendectomy(IA)が有効との報告が小児外科を中心になされている.そこで当科でもIAプロトコルを作成し,小児成人,糞石の有無,にかかわらず適応症例にIAを行っている.当院でのIAの成績を報告するとともにその有用性を検討する.[方法]プロトコルに適応しIAを行った20例につき経過を検討した.[結果]プロトコル逸脱は2例で,残り18例でプロトコルを完遂し待機的に腹腔鏡下虫垂切除術を行った.またこれら症例の術後合併症は表層SSI2例のみであった.[結論]筆者らの行っているIAプロトコルは,腫瘤形成性虫垂炎に対し安全かつ低侵襲な治療法である.

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◆要旨:患者は65歳,女性.糖尿病のフォロー中,エコー検査にて約8mmの膵体部腫瘍を指摘された.EUS下生検では膵神経内分泌腫瘍G1であった.手術前日にENPDチューブを留置し,完全腹腔鏡下膵腫瘍核出術を施行した.術後膵液瘻は,ISGPF Grade Aであり,術後6日目にドレーン抜去,12日目に軽快退院となった.術前留置したENPDチューブは,術中に主膵管を同定するナビゲーションとしては非常に有用であった.ただし,自験例では術中主膵管が露出してしまい損傷の危険性も高く,推奨されるべき術式とは言えなかった.腹腔鏡下膵腫瘍核出術の適応となる症例は少なく,技術的に難しい部分もある.慎重な症例選択と丁寧な手術手技,安全性の高いトラブルシューティングが重要であると考える.

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◆要旨:患者は73歳,女性.他院での腹部X線撮影で下腹部に縫い針様の金属異物を指摘され紹介された.腹部CT検査で下腹部腹壁内に針状の金属異物を認め,腹直筋鞘の背側で腹膜に接するように位置していた.体表から摘出を試みた場合に針を腹腔側へ押し込む可能性が危惧されたため,腹腔鏡下に伏針摘出を試みた.腹腔鏡により腹膜前腔の直針を良好に観察し遺残なく摘出した.針は4cmの縫い針であった.CT検査で詳細な位置を検討することで計画的に腹腔鏡下手術を選択し,良好な視野で摘出することが可能であった.腹膜前腔に到達した腹壁伏針では良好な視野でより安全に摘出できる可能性が示された.

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◆要旨:患者は40歳台,男性.一過性の右上腹部痛にて前医を受診した.CT検査で肝内に異物を認め,当科紹介となった.精査で長径3.5cmの肝内に迷入する針状異物を認め,今後の膿瘍形成などを考慮し摘出術の方針とした.腹腔鏡下に観察すると腹膜と肝臓との間に索状物を認め,体壁からの迷入異物と診断した.X線透視も併用し肝下面に異物の先端を確認した.消化管との瘻孔などはなく,鉗子で異物を摘出した.術後合併症はなかった.術前の問診からは穿刺既往を確認できなかったが,摘出物から患者が仕事で用いるグラインダー用カップブラシと診断した.腹腔内異物の中でも肝内異物は比較的稀であり,経皮経肝的に迷入した極めて稀な1例を経験したので報告する.

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◆要旨:患者は67歳,女性.4年前に血便を認め,他院にて内視鏡検査を施行した.回腸末端に出血性粘膜下隆起を認め,内視鏡的止血術を施行された.今回,再度血便と貧血の進行を認め当院を受診した.造影CT検査にて回腸末端に強い濃染像を伴う腫瘤影を認め,経肛門的小腸内視鏡検査にて回腸末端に発赤調の粘膜下腫瘍を疑う病変を認めた.以上より出血源として回腸粘膜下腫瘍が最も疑われ,十分なインフォームド・コンセントのもと,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術後経過は良好で第9病日に退院となった.病理組織学的に隆起部の粘膜下層に拡張した動脈様血管と蛇行した静脈様血管を認め,回腸動静脈奇形の診断となった.術後1年経過した現在消化管出血の所見を認めていない.

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◆要旨:虫垂炎術後70年経過して発症した盲腸皮膚瘻に対して腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行し,治療しえたので報告する.患者は90歳,男性.20歳の時に開腹虫垂切除術を施行された.70年経過し,右下腹部の手術痕から便汁様排液を認めたため,当院を紹介され受診した.CT検査で創直下の腹壁欠損を認め,同部位に盲腸が瘻孔を形成し,盲腸皮膚瘻と診断した.腹腔鏡下の観察で,ヘルニア門に盲腸と大網の一部がはまり込み,癒着していたため,剝離した.続いて手術痕を取り除く形で皮切を置き,腹腔鏡で施行した剝離層に繋げて盲腸を遊離した.皮膚と瘻孔と一塊になった盲腸の部分切除を行った.腸管皮膚瘻に対する腹腔鏡下手術は,正確な病態把握と低侵襲治療に有用である.

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◆要旨:症例1は57歳,男性.直腸癌(Rab)に対し腹腔鏡下低位前方切除+回腸人工肛門造設術を施行した.症例2は54歳,男性.直腸癌(Ra)に対し腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.症例3は67歳,男性.直腸癌(Rb)に対し腹腔鏡下直腸切断術+左側方郭清を施行した.体位は砕石位で両下腿に間欠性空気圧迫装置を装着し,頭低位・右側低位としていた.手術時間は各々575分,310分,619分でいずれも術直後より左下腿の硬結・圧痛を認めた.CTで左下腿筋の造影不良・浮腫を認め下肢コンパートメント症候群と診断し,保存的治療にて軽快した.下肢コンパートメント症候群は時に後遺障害を残すことのある重篤な合併症である.文献的考察を踏まえ,筆者らの対応策を含めて報告する.

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◆要旨:患者は70歳,女性.潰瘍性大腸炎関連大腸癌の診断で手術予定であった.術前のバリウム注腸検査中に直腸癌部より穿通してバリウム後腹膜炎を発症したため,緊急で腹腔鏡下手術を施行した.術中所見では後腹膜への広範囲なバリウムの漏出を認めた.大腸全摘術ならびに回腸単孔式人工肛門造設を行い,生理食塩水にて洗浄ドレナージを行った.術後経過は良好で,術後21日目に退院となった.バリウム後腹膜炎はバリウムが腸管外に漏出した穿孔性後腹膜炎であり,重篤な病態である.今回筆者らは,腹腔鏡下手術にて良好な経過を得たバリウム後腹膜炎の1例を経験したため文献的考察を加えて報告する.

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◆要旨:患者は56歳,男性.腹痛,嘔吐を主訴に当院内科を受診した.各種検査の結果,食餌性腸閉塞と診断しイレウス管を留置した.イレウス管留置時の上部消化管内視鏡検査にて食道内に胃石を,胃角大彎側にA2 stageの潰瘍を認め,胃石症ならびに胃石性腸閉塞と診断した.第2病日に発熱があり,炎症反応上昇を認めたため,緊急手術となった.手術は腹腔鏡補助下に行った.臍部ポート創を約3cm延長し,胃石が嵌頓した小腸を切除・吻合した.再気腹し,術中内視鏡を併用して潰瘍病変を避けるように胃壁切開を加え,胃石を摘出した.術後経過は良好で術後5日目より食事を開始した.術後24日目に退院となった.潰瘍を伴う胃石症,胃石性腸閉塞に対し腹腔鏡補助下に胃石摘出ならびに胃石嵌頓腸管切除を施行した報告例は稀である.また,術中内視鏡の併用は胃壁切開部位の決定において非常に有用であった.文献的考察を含めて報告する.

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◆要旨:患者は44歳,男性.突然の腹痛を主訴に近医を受診した.CTにて膵鉤部周囲血腫と正中弓状靱帯圧迫症候群(MALS)に伴う後上膵十二指腸動脈解離を認めた.前医でコイル塞栓止血術を施行され,MALSに対する腹腔鏡下手術を施行した.上腹部5ポートによる手術操作にて,左胃動脈を根部に向かって剝離し,肥厚した正中弓状靱帯(MAL)を同定した.MALを切離して腹腔動脈の根部を広く露出した.術中ICG蛍光造影にて,腹腔動脈根部の順行性血流を確認した.術後問題なく経過し,4D flow MRIにて腹腔動脈系血流の是正が確認された.従来,開腹でのMAL切離が行われていたが,近年では腹腔鏡下手術の有用性が報告されつつある.

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◆要旨:症例1:患者は70歳,男性.弓部大動脈瘤に対して大動脈弓部置換術を施行後,4か月後の上部消化管内視鏡検査で食道に瘻孔を認めた.瘻孔内部で大動脈弓部の人工血管の露出を認め,大動脈食道瘻(AEF)と診断した.症例2:患者は68歳,女性.内服薬のPTP包装を誤飲した4日後,吐血を主訴に近医を受診し当科紹介となった.CTで胸部下行大動脈に仮性動脈瘤を認め,異物誤飲によるAEFと診断した.2例とも胸腔鏡下食道切除術,頸部食道瘻,腸瘻造設術を施行し,全身状態の改善を待って二期的食道再建術を行った.AEFにおける食道亜全摘術は右側方開胸を基本としているが,出血や炎症の波及が軽度の症例では侵襲低減のため胸腔鏡下手術も考慮すべきと思われた.

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目次

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投稿時のチェックリスト

編集後記 中村 雅史
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 冬の終わりを告げる春一番の嵐が続く中でこの編集後記を書いています.冬の終わりと共に30年と数か月続いた平成も終わりを告げることとなりますが,本号は新元号下での第一号となります.日本内視鏡外科学会雑誌は1996年(平成8年)2月に創刊されました.フランスの産婦人科医Mouretが最初のビデオスコープ下による胆囊摘出術を成功させた9年後であり腹腔鏡手術があらゆる分野で挑戦的な医療であった時代でした.その後,ビデオや鉗子,エネルギーデバイス等の目覚ましい進歩に支えられて,今日では私が専門としている肝胆膵領域も含めたほぼ全ての領域で腹腔鏡・胸腔鏡を用いた手術が日常的に行われるようになりました.

 しかしながら,その間に起きた腹腔鏡関連の医療事故が社会問題になったことを忘れてはなりません.この反省から若林剛先生,金子弘真先生らが中心となり肝臓内視鏡外科研究会で消化器外科領域では最初の前向きレジストリーが開始され,これに倣って腹腔鏡下の膵切除術に関しても同様のレジストリーが整備されました.結果的にこのようなシステムが評価されて,肝・膵の高難度手術に関しても腹腔鏡手術が保険収載されることとなったのは周知のことと思います.このような歴史的背景を思いながら本号を見直してみますと,単純に新たな術式の発表等でなく,複雑な病態や稀な状況への腹腔鏡手技の応用法といった論文が主であり,この分野が既に成熟していることを改めて感じさせる内容になっています.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
24巻3号 (2019年5月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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