日本内視鏡外科学会雑誌 12巻1号 (2007年2月)

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われわれは一定期間,総胆管結石症にて腹腔鏡下総胆管切開時に血管吻合用クリップであるVCSクリップ(vascular closure staple)を用いた総胆管直接閉鎖術を施行してきた.計16例に本術式を施行し,外来にて定期的に血液検査,MRCPなどを施行した(最長観察期間は6年7か月).1例に術後1年目に総胆管結石再発を生じたがクリップとの明らかな関連は認めず,この症例以外は再発結石を認めていない.術直後に胆汁瘻と胆管狭窄を認めた症例では,フォローアップのMRCPでは明らかな胆管狭窄はなく,肝胆道系酵素の上昇も認めていない.VCSクリップは腹部X線や超音波検査では胆管閉鎖部に残存し,観察範囲ではクリップの脱落などは認めなかった.VCSを用いた腹腔鏡下総胆管直接閉鎖術は,器具の改良などがなされれば総胆管結石治療の1つの選択肢となりえると思われるが,今後も厳重な経過観察が必要と考える.

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症例は84歳,女性.上腹部痛を主訴に近医を受診し,肝機能異常を指摘され,他院を紹介された.諸検査より金属クリップを核とした総胆管結石と診断され,内視鏡的乳頭切開術(endoscopic sphinctecterotomy : EST)により採石が行われた.本例は当院での腹腔鏡下胆管結石治療例であった.金属クリップの迷入は,胆管に接して留置されたクリップの開いた側のedgeが,動脈の拍動などの微細な振動によって脆弱な胆管壁を少しずつ侵食して貫いてくると考えられた.金属クリップによる弊害は徐々にその数を増しており,もはや見逃すことのできない合併症といえる.本例のような合併症を防ぐために,今後胆石症例においてはクリップレス手術とすることが肝要であると考えられた.

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患者は60歳,男性.急激な腹痛を伴い当院へ救急搬入された.来院時,腹部症状と画像診断にて上部消化管穿孔と診断され緊急手術となった.腹腔鏡挿入時,胃前庭部前壁に直径2mmのピンホール状の穿孔部と同部を中心とした炎症所見を認めた.胃体下部の壁硬化とリンパ節腫大,さらに肝外側区域に直径3cmの転移性と思われる腫瘤を認めた.悪性疾患が疑われたが大網充塡術とドレナージ術にとどめた.術後順調に回復し,精査の結果,胃癌および肝転移と診断した.開腹にて根治度B手術を追加しえた.消化管穿孔の緊急手術において腹腔鏡下手術は,潰瘍だけではなく進行胃癌の穿孔に対しても診断・治療に有用であることが示唆された.

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子宮広間膜裂孔ヘルニアは稀である.術前CT検査にて診断し腹腔鏡下に治療した症例を経験したので報告する.40歳代の女性で突然の右下腹部痛で発症した.CT検査で子宮が腹側左側に偏位し,Douglas窩に拡張した小腸ループが確認できた.右子宮広間膜裂孔ヘルニアと診断し,腹腔鏡下に手術を行った.右子宮広間膜に約2cmの裂孔を認め,これをヘルニア門として回腸が20cm嵌頓していた.嵌頓腸管を整復し,子宮広間膜の裂孔は縫合閉鎖した.腸切除は必要なかった.本症は稀であるが,腸閉塞の鑑別診断として念頭に置き,CT検査で早期に診断することにより腸切除を回避できる.腸切除が不要であれば腹腔鏡下に手術することが第一選択となる.

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症例は79歳,女性.胆石症にて入院した.術前心電図,心臓超音波検査は正常範囲内であった.全身麻酔下に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行し,麻酔の導入,手術,覚醒ともに問題なく終了した.第1病日にモニター上T波陰転が出現し,患者の自覚症状は特になかった.12誘導心電図ではⅠ,Ⅱ,aVL,V2~6で陰性T波を認めた.心臓超音波検査では左室心尖部の壁運動の低下,バルーン状拡張を認め,たこつぼ型心筋症と診断した.壁運動低下の範囲は小さく,また循環動態も安定しており経過観察とした.術後1か月後の心臓超音波検査では左室壁運動の改善を認めた.本症の誘因の1つに消化器外科手術が挙げられ,外科医にとって注意しなければならない術後合併症の1つである.

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症例は81歳,男性.多発性脳梗塞,廃用症候群に伴う摂食障害があり,2002年7月に当院で経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy : PEG)を施行した.その際に鎮静困難なため全身麻酔を使用した.2003年4月に内視鏡下に胃瘻交換を行ったが容易ではなく,ガイドワイヤーを使用した.同年7月頃より水様性下痢,胃瘻より便臭を伴う排液を認め当院に入院した.腹部CTで胃瘻が胃から逸脱しており,胃瘻および注腸造影で胃結腸瘻の診断となった.保存的治療を行ったが改善せず,手術を施行した.腹腔鏡下に腹壁と横行結腸,胃体部と横行結腸の瘻管を自動縫合器で切除した.腹腔鏡補助下にPEGを再施行した.術後経過は良好であった.PEG施行の際は重篤な合併症である内臓誤穿刺を起こさない工夫が必要である.また,胃結腸瘻の治療として腹腔鏡下手術は有用であった.

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症例は13歳の女児.遺伝性球状赤血球症にて経過観察中に腹痛と黄疸が出現し入院となった.腹部CT検査,腹部MRI検査の結果,胆囊結石と総胆管結石を認め,手術目的に当科に紹介となった.保存的に黄疸は軽減し,一期的に腹腔鏡下手術を施行することとした.まず仰臥位にて総胆管切石術および胆囊摘出術を行い,体位変換の後,脾臓摘出術を行った.手術時間は8時間27分と長時間を要したが,術後合併症は認めず,第9病日に外科退院となった.腹腔鏡下に胆囊摘出術,総胆管切石術および脾臓摘出術を一期的に行うことで患児への負担を最小限にし,かつ早期の退院を可能にすることができた.

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症例は61歳,女性.胆道系酵素の上昇を認め,超音波検査,ERCPで胆囊・総胆管結石と診断された.総胆管結石を内視鏡的截石後,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.胆囊管と胆囊動脈の処理後,胆囊剝離時に胆汁が漏出し胆管損傷も疑われたため術中胆道造影を施行し,重複胆囊管の損傷であることが確認された.総胆管内にも結石と思われる陰影欠損を認めたため損傷部よりCチューブを留置した.術後造影で総胆管内の結石が胆囊管嵌頓結石であったことが確認され,内視鏡的に截石した.重複胆囊管は稀であるが,胆道損傷回避のための術前・術中の胆道評価が重要である.また,胆囊管嵌頓結石例への慎重な対応が必要である.

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開腹既往のないイレウス,特に内ヘルニア症例に対して腹腔鏡下手術を施行した5症例のうち3例を呈示するとともに,腹腔鏡アプローチの有用性について検討した.術前,原因診断不明例は大網裂孔ヘルニアの2例,疑診例は子宮広間膜裂孔ヘルニアの1例であったが,腹腔鏡を挿入し確定診断を得るとともに,腹腔鏡操作のみで嵌頓を整復しえた.術前画像にて確定診断を得たものは閉鎖孔ヘルニアの2症例であった.腹腔鏡下手術を行い嵌頓腸管の整復を行ったが,すでに腸管の壊死・穿孔が存在していたため小開腹を置き腸切除を施行した.腹腔鏡アプローチは内ヘルニアの診断および治療方針の決定に優れ,さらに低侵襲性の観点からも有用であると思われた.

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症例は57歳,男性.右胸部に疼痛を自覚した.胸部CT検査では,腫瘍は胸壁に接し右肺上・下葉間に存在していた.腫瘍は造影効果に乏しく,2か月間で5cmから3.5cmに自然退縮した.石綿曝露歴があり悪性腫瘍が否定できないため,確定診断,治療目的に胸腔鏡補助下に腫瘍を完全切除した.腫瘍は胸壁より隆起し右肺上下葉間に癒着していたが,胸腔鏡を用いることで胸腔内側からの視野を得て容易に摘出しえた.腫瘍は境界明瞭な厚い被膜に覆われ,内部はアテローム様の異臭を伴う粥状物質を含む充実性の腫瘍であった.病理診断は奇形腫であった.胸腔鏡下手術の対象疾患として,胸壁腫瘍はよい適応であると考えられた。

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患者は67歳,女性.2005年1月に排便時出血を認め,前医で大腸内視鏡を施行した.下部直腸に黒色調の腫瘤性病変を認め,当院に紹介となった.精査の結果,直腸悪性黒色腫の診断で手術を施行した.腹腔鏡下に中枢側D2郭清を施行し,自律神経を温存した.次いで会陰操作を行い,直腸切断術を終了した.病理組織学的検査の結果はmp,ly1,v1,n(-),stageI,根治度Aであった.術後化学療法を継続し,1年経過した現在再発はなく生存中である.本疾患は予後が極めて不良であり,患者のQOLを重視した本術式も今後治療法選択の1つとして考慮されるべきであると思われた.

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縦隔腫瘍に対しては,胸腔鏡下手術はその低侵襲性を考慮するとよい適応であるが,しばしば手術に難渋する症例を経験する.その際,腫瘍の存在部位,大きさにより,視野確保が不十分と感じることも多い.前縦隔病変に対しては視野確保のために胸骨吊り上げ法などの工夫がなされているが,腫瘍が横隔膜,食道,心臓に囲まれた部位に存在する後縦隔病変に対しても視野確保のための有効な方法,手術器具の必要性を感じることも多い.今回,後縦隔腫瘍に対して胸腔鏡下切除を行う際に,分散型多方向性ハートポジショナーTentacles(住友ベークライド)を用いて,良好な視野確保が可能であった症例を経験したので報告する.

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診断が困難であった外傷性腹部損傷の59歳,男性.循環動態が安定しているため,まず診断的腹腔鏡を行い,腸管膜損傷による動脈性出血およびその血流支配領域の循環不全,さらに他部位に小腸穿孔を確認した.引き続き緊急処置へと移行し,腹腔鏡下にて縫合止血・穿孔部一時閉鎖を行い,まず循環動態の悪化・腸液による腹腔内の汚染拡散防止を優先した.その後,約3.5cmの小開腹を置き,体外操作で直視下に穿孔部および壊死腸管の修復を行った.その後,再気腹・大量洗浄を施行し,手術を終了した.腹腔鏡下手術の利点である低侵襲性・拡大視効果を損なうことなく手術を完遂し,術後9日目に軽快,退院となった.外傷性小腸穿孔・腹腔内出血症例でも,適応を選び,局所制御(止血,汚染拡散防止)を優先させ徹底した腹腔内洗浄を行うことで腹腔鏡下手術が有効であった症例を経験したので報告する.

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欧文目次

「日本内視鏡外科学会」定款

「日本内視鏡外科学会」収支決算書

2005(平成17)年度会計監査報告書

評議員申請について

EVENT NEWS

「日本内視鏡外科学会雑誌」投稿規定

著作権譲渡同意書ならびに誓約書

編集後記 伊熊 健一郎
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 先天性腟欠損症と腹腔鏡下手術との出会いを振り返りながら,内視鏡手術の展望について考えたいと思います.読者の先生方はRokitansky-Kuster-Hauser症候群という疾患をご存知ですか.女性の約5,000人に1人の割合で出現する先天性腟欠損症です.染色体異常はなく,卵管や卵巣は正常に発育し,排卵もあり思春期の成熟は普通です.子宮形成に必要なMuller管の発生分化の障害で,子宮は痕跡状で子宮機能は欠如します.また,腟形成に必要な尿生殖洞の発生分化も欠如するため,腟の入口部は盲端になっており,正常な腟管形成は起きておりません.この疾患に初めて遭遇したのは産婦人科医師になって11年が経過した1986年の時でした.初潮はなく愛するパートナーとの性交もできないことを両親に打ち明け,悶々とした苦悩の毎日を送っているとして紹介されました.本人は絶望的な表情でした.対処法を探しました.あきらめてもらうか,手術をするか.

 手術には実に色々な方法がありました.結果的には,外科医師との連携の下に,翌1987年にS状結腸を利用する人工造腟術を選択しました.1989年の2例目もうまくできました.しかし,当時はあたり前であった恥骨から臍に至る切開腹創は大きな課題でした.この直後に全く新しい概念の内視鏡手術が登場してきたのです.1993年の3例目に対しては,開腹で行われていた手術手技の比較的簡便な骨盤腹膜を利用する方法を,腹腔鏡下に再現しました.1995年にはすべての工程を腹腔鏡下に行うS状結腸利用法も世界に先んじて行い,腹腔鏡下手術のさらなる展開の可能性を確信しました.課題であった腹壁創に関しては解消できました.しかし,先の骨盤腹膜利用の症例で腟壁の肉芽組織増殖による出血と帯下のため性交は不能になりました.また,狭窄して腟機能を果たさない症例も紹介されました.これらの難題に対しても腹腔鏡下でのS状結腸利用法で対処できたのです.腟としてのできばえと術跡も小さな腹壁創であったことから,女性としての自信を取り戻し,幸せな結婚生活をもつカップルもあります.悲喜こもごもの36症例にかかわっています.女性の再生を果たすめの腹腔鏡下手術の役割は極めて大きいものです.これらの経緯や実際の手術方法に関しては,本誌第12巻3号に掲載を予定しています.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
12巻1号 (2007年2月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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