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先天性腟欠損症と腹腔鏡下手術との出会いを振り返りながら,内視鏡手術の展望について考えたいと思います.読者の先生方はRokitansky-Kuster-Hauser症候群という疾患をご存知ですか.女性の約5,000人に1人の割合で出現する先天性腟欠損症です.染色体異常はなく,卵管や卵巣は正常に発育し,排卵もあり思春期の成熟は普通です.子宮形成に必要なMuller管の発生分化の障害で,子宮は痕跡状で子宮機能は欠如します.また,腟形成に必要な尿生殖洞の発生分化も欠如するため,腟の入口部は盲端になっており,正常な腟管形成は起きておりません.この疾患に初めて遭遇したのは産婦人科医師になって11年が経過した1986年の時でした.初潮はなく愛するパートナーとの性交もできないことを両親に打ち明け,悶々とした苦悩の毎日を送っているとして紹介されました.本人は絶望的な表情でした.対処法を探しました.あきらめてもらうか,手術をするか.
手術には実に色々な方法がありました.結果的には,外科医師との連携の下に,翌1987年にS状結腸を利用する人工造腟術を選択しました.1989年の2例目もうまくできました.しかし,当時はあたり前であった恥骨から臍に至る切開腹創は大きな課題でした.この直後に全く新しい概念の内視鏡手術が登場してきたのです.1993年の3例目に対しては,開腹で行われていた手術手技の比較的簡便な骨盤腹膜を利用する方法を,腹腔鏡下に再現しました.1995年にはすべての工程を腹腔鏡下に行うS状結腸利用法も世界に先んじて行い,腹腔鏡下手術のさらなる展開の可能性を確信しました.課題であった腹壁創に関しては解消できました.しかし,先の骨盤腹膜利用の症例で腟壁の肉芽組織増殖による出血と帯下のため性交は不能になりました.また,狭窄して腟機能を果たさない症例も紹介されました.これらの難題に対しても腹腔鏡下でのS状結腸利用法で対処できたのです.腟としてのできばえと術跡も小さな腹壁創であったことから,女性としての自信を取り戻し,幸せな結婚生活をもつカップルもあります.悲喜こもごもの36症例にかかわっています.女性の再生を果たすめの腹腔鏡下手術の役割は極めて大きいものです.これらの経緯や実際の手術方法に関しては,本誌第12巻3号に掲載を予定しています.
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