胃と腸 25巻12号 (1990年12月)

今月の主題 早期胃癌類似進行癌の診断

序説

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 1.早期類似進行胃癌とは?

 最近の「胃癌取扱い規約」1)によると,胃癌の肉眼的分類は“まず新鮮標本を粘膜面より見た癌型をつぎの6型に分類する.

 0型

 1型

 2型 Borrmannの分類型に準じる.

 3型

 4型

 5型(unclassified):以上のいずれにも属せしめえない型”

とされている.そして説明のところに,“5型unclassifiedは4型までのいずれにも分類されえないもので,早期癌類似の進行癌や,きわめてまれな型……などがこれにあたる”と記載され,更に“この癌型(5型)は近年次第に増加の傾向にあるにもかかわらず,そのentityの独立性に対する検討もいまだ十分につくされていない.また,本来肉眼分類であるべき分類型に組織学の助けをかりる領域がさらに拡張され,るという矛盾も加わり,肉眼分類の0型と5型の解釈をめぐって大きな問題が今後の検討課題として残されることになった”と記載されている.

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読影の方法

 13名の読影者に(A)(B)の用紙を配布し,(A)には1)深達度,2)診断に有用であった検査法,3)組織型,について記載してもらった.この際,深達度については,①m,②sm,③pm,④ss以上と分類し,いずれかを○で囲んでもらった.

 更に(B)には1)病変の拡がり,2)浸潤様式をシェーマとして記入してもらった.このシェーマから,例えば(A)の用紙に読影者がpmと記載していても,少量の癌がpmに浸潤したと考えていたのか,大量のpm浸潤と考えていたのかを判定した.なお,臨床の先生には臨床材料のみ,病理の2名の先生にはX線,内視鏡などの臨床材料のほかに,マクロのスライドまでみていただいたうえで記入していただいた.

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要旨 肉眼的に早期胃癌と判定した早期胃癌類似進行癌の実態を究明するために,胃癌手術例2,547例のうち,肉眼的に早期癌と診断した進行癌(以下表在型類進癌)59例を取り出し,年齢,性および組織型を一致させたsm癌とBorrmann型進行癌とを対比して,臨床病理学的に検索した.表在型類進はM領域に存在し,肉眼的にⅡc+Ⅲ型を示す症例が多かった.深達度はBorrmann型に比べてpmが多く,脈管侵襲はsm癌と同等であり,リンパ節転移率,stageはsm癌に近い値を示した.組織学的に浸潤形式をみると,表在型類進癌は,潰瘍を伴いpm以下に微小浸潤を示す分化型癌の症例が多く,潰瘍を伴わない症例は,びまん浸潤を示す未分化型癌が多かったが,いずれの型も,pm以下に浸潤した癌の量は少なかった.また予後の面よりみると,5年生存率は,ss以下の癌が含まれているにもかかわらず,一般のpm癌よりよく,sm癌に近い値を示した.以上より,表在型類進癌は,早期癌と区別できないという肉眼的な所見をよく反映し,組織学的にもsm癌と近似の所見を示すpm以下に少量の癌細胞の浸潤を認める癌であった.したがって,早期癌から進行癌へ至る中間的な癌というより,むしろsm癌と同等の臨床的な評価を受けるべき癌と思われた.

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要旨 早期胃癌に対する縮小手術や内視鏡的切除療法が普及してくるにつれて,早期胃癌であることを正しく診断することがますます重要となってきた.われわれは,切除標本上で肉眼的に早期胃癌と診断した進行癌(準早期深達癌)を“早期胃癌類似進行癌”とし,これと肉眼的に進行胃癌と診断した早期癌(準進行表在癌)を臨床病理学的に比較検討し,次の結果を得た.上部,長径4cm以上,陥凹型,未分化型の癌,若年者の場合には,深達度を浅く見積もってもpm以上の深いものがある.一方,中下部,長径4cm未満の癌,男性の場合には深達度を深く見積もっても浅いものがある.双方とも予後は良好で,臨床上の問題は少ない.

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要旨 早期癌類似進行癌を独立した陥凹型進行癌とし,その肉眼型を決め診断の確かさを検討した.1978年から1989年までに経験した進行癌のうち5型は103病変(22.8%)で,そのうち,ひだ集中を伴いBorrmann型の周堤隆起を伴わない進行癌は82病変(79.6%)あり,これに同期間のひだ集中を伴う早期癌を加え,X線的に検討可能例(m:96病変,sm:91病変,進行癌:45病変)で検討した.周囲の隆起(++)をpm以下と診断すれば,早期癌の4.8%を進行癌と,進行癌の68.9%を早期癌と誤診する.ひだ集中(++)は潰瘍に伴うpm以下の組織学的変化を示すと考えられ,この指標では早期癌の29.9%を進行癌と,進行癌の35.6%を早期癌と誤診する.周囲の隆起(++)とひだ集中(++)を組み合わせると進行癌の73.3%が正診された.しかし,26.7%は早期癌としか診断できず,この内訳はpmに微小浸潤する5病変,pm以下にmassiveないし索状に浸潤した病変ではC領域の4病変,伸展が良好な2病変と小彎でひだ集中の軽度な2病変であった.早期癌類似進行癌の肉眼型は,ひだ集中を伴いBorrmann型の周堤の隆起を伴わない陥凹型癌のうち,著明なひだ集中を伴うか,あるいは陥凹周囲の隆起の明らかなものと定義され,著明なひだ集中を伴う例では胃壁の組織学的変化の深さが癌の深達度と判定されると考えられた.

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要旨 早期胃癌類似進行癌の大部分は陥凹型で,癌の深部浸潤の拡がりが粘膜内癌のそれよりも狭いものが多い.また癌の深部浸潤形式は微小浸潤,あるいは散在性浸潤で,癌細胞量は少ないものが多かった.このような浸潤形式を示す要因として癌巣内での繰り返した潰瘍の存在と,それによる持続した胃壁内の高度な線維症が最も大きく,それと相まって肉眼での深達度診断を困難にしていると考えられた.これに対して陥凹型早期胃癌の形態を保持しているが,肉眼的には進行癌とされるBorrmann型との中間型は消化性潰瘍の併存頻度が低かった.また肉眼的には粘膜ひだの集中を伴い消化性潰瘍の存在が疑われる症例でも,胃壁内の線維症は軽度,かつ癌細胞はびまん性浸潤を示していた.これらのことより陥凹型胃癌の肉眼形態に与える影響は癌の深部浸潤形式と同時に,消化性潰瘍の線維症が最も大きい.

今月の症例

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 〔患者〕61歳,女性.右大腿部痛を訴えて当院整形外科を受診,ALPの異常を指摘され精査目的で当科を紹介された.

 〔胃X線所見〕前壁圧迫像(Fig.1)では,胃角大彎に先端の肥大癒合した粘膜ひだの集中を認め,その一部は虫喰い様中断を示した.更にその口側には中に顆粒状隆起を有する不整なバリウムの溜まりを見る.前壁二重造影(Fig.2)では,これらの病変以外に体下部前壁に細顆粒状粘膜に囲まれたバリウムフレック,更にその小彎側にやや深い線状のバリウムフレックを認める.背臥位二重造影(Fig.3)では,胃角後壁に顆粒状粘膜に囲まれた不整形バリウムフレックを認め,また角部小彎と体下部小彎に小バリウムフレックを認めた.

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 第32回日本消化器病学会秋季大会は1990年10月25日から27日までの3日間,奈良県立医科大学第3内科辻井正教授を会長として,奈良市で開催された.

 本学会では,一般演題950題(口演709題,ポスター241題)をはじめ,特別講演2題,招待講演3題,教育講演1題,会長講演,シンポジウム4題,パネルディスカッション4題,ワークショップ1題,リサーチフォーラム1題,胆汁酸メモリアルシンポジウム1題と極めて多数の発表が行われた.学会印象記を書くに当たって,教室の後輩の協力を得て可能な限り聴いたが,発表会場が8施設13会場に分散されており,ごく一部しか聴くことができなかったことをあらかじめお断りしておく.

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要旨 患者は74歳の女性で,意識障害および多量の粘液便を主訴として近医に入院し,直腸指診で巨大な直腸腫瘍を認めたため当科へ紹介された.入院時高度な脱水および高窒素血症があり,特に血清Na+,Cl-は著明に低下していた.ガストログラフィンによる注腸造影では肛門縁直上よりRaに至る毛羽立ち様変化を認める腫瘤性病変があり,大腸ファイバーでは表面が白色調,微細顆粒状を呈した隆起性病変を認めた.術前電解質および脱水の補正後,腹会陰式直腸切断術を施行した.術後経過は良好で,意識障害は軽快し,粘液排泄も消失した.組織学的には,高分化型腺癌と粘液癌の合併した絨毛腺腫であった.本邦における報告は極めてまれで,本例を含め20例である.

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要旨 患者は42歳の女性で,心窩部痛と下血を主訴に受診し,上部消化管造影および内視鏡検査では,十二指腸下行脚に山田Ⅲ型の正常粘膜に覆われたやや結節状の隆起性病変を認めた.通常の直視下生検では腫瘍性病変は検出されずエタノール局注後の生検により,gangliocytic paraganglioma(GP)が考えられたため,十二指腸腫瘤核出術を施行した.腫瘍は主として粘膜下層から筋層内に位置する比較的境界明瞭な結節性病変で,組織学的にGPと診断された.GPが術前診断されることは少なく,自験例のようにエタノール局注を行い積極的に診断しえた例の報告はない.GPの組織発生はいろいろの仮説があるが不明の点が多い.われわれは免疫組織化学的に腫瘍細胞内にホルモン様物質を証明し,電顕的に神経分泌顆粒を認めたことよりGPをparaneuron系の腫瘍と考えた.

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要旨 ヒト胃癌における粘膜下組織浸潤部が2mm以下の初期粘膜下組織浸潤巣69病巣について,癌細胞の粘膜筋板通過様式を病理組織学的に検討した.初期粘膜下組織浸潤様式は4種類あり,①脈管周囲型(癌細胞が粘膜筋板を貫く脈管周囲の組織間隙を経て粘膜下組織へ達するもの)が最も多く,全体の約70%を占める.次いで,②脈管侵襲型(脈管侵襲によるもの),③破壊型(粘膜筋板の破壊・断裂によるもの),④異所性腺管型(異所性腺管の周囲組織を通って粘膜下組織へ達するもの,未分化型癌のみ)がある.3~10mmの粘膜下組織浸潤でも,原則的には2mm以下の粘膜下組織浸潤様式が適用でき,ほかに浸潤様式不明のものがある.頻度は脈管周囲型浸潤が最も多いが,破壊型が増加する傾向がある.

早期胃癌研究会

1990年10月の例会から 中野 浩
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 今回も500余名の先生方が会場を埋めつくした.司会は中澤(藤田学園保健衛生大学第2教育病院内科),中野(藤田学園保健衛生大学内科)が受け持った.

 〔第1例〕56歳,男性.早期食道癌(Ⅱa,mm)(症例提供:都立駒込病院内科 門馬).

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

12.私のルーチン撮影法(2) 八尾 恒良
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 最近ルーチン検査は週に2~3例しか行っていない.したがってルーチン検査法を述べる資格はないが仕方ないので……,

 ①飲用させるバリウムの量:一定していない.用手圧迫しつつ観察しながら飲用させ,140%のバリウムが球部からあふれそうになると中止する.通常は200ml前後で,充盈像辺縁からの診断は二重造影像の辺縁の読影で補う.量が少ないのはあとで撮影する二重造影の描出範囲を広くしようという考えである.

12.私のルーチン撮影法(2) 浜田 勉
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 1.はじめに

 ルーチン検査の目的は病変(早期癌)を確実に拾い上げることに尽きる.日常診療においては,時間的制約のもとでの効率(午前中10人程度)と小胃癌診断を指向する時代的背景のもとでの精密度の両面を考え併せておかなければならない.これらのニーズに合った標準的なルーチン検査法を指向して,以下,現在われわれの施設で行っている実際の手順を中心に述べる.

12.私のルーチン撮影法(2) 芳野 純治
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 ルーチンX線検査

 上部消化管X線検査は1回の検査でX線的な異常を指摘すると共に,その質的診断までも可能な検査であることが望ましい.しかし,スクリーニングとして行われるルーチン検査ではフィルム枚数や検査時間などの制約があるため,病変の全貌を捉えることができなくても,少なくとも病変を見逃さない方法でなければならない.X線検査法は粘膜法,二重造影法,圧迫法,充盈法の方法から成るが,これらの利点・欠点を熟知する必要がある.

入門講座・12

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
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 回腸末端および回盲部のX線検査

 小腸の中で回腸末端部は最も病変の頻度が高い部位である.また,Bauhin弁や盲腸もよく病変がみられる場所である.したがって小腸のX線検査の際,この部分は特に注意して検査する必要がある.

 まずすべてのX線検査法に共通して言えることは,回腸末端とBauhin弁,盲腸の相互の位置関係を正確に描出すべく努力せねばならないということであろう.例えば腸結核はこの部の変形に基づいて診断されることが多いし,盲腸周囲膿瘍も上述した部位の位置関係から診断される.

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欧文目次

編集後記 渡辺 英伸
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 早期癌類似進行胃癌の全貌が本号でどのくらい新たに掘り起こされたのだろうか.早期胃癌の肉眼的特徴は組織所見の裏打ちで,よく描出されてきた.しかし,進行胃癌のそれは,現在でも“Borrmann型”という亡霊の肉眼的特徴から抜け出ていないように,筆者にはみえる.Ⅱc様進行癌か局所性びまん浸潤型癌かの判定が人によって異なることが,そのことを物語っている.

 読者は本号から,「早期癌類似進行胃癌」の客観的ないし具合体的肉眼所見を,確実に読み取ることができたであろうか.

基本情報

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胃と腸
25巻12号 (1990年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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