胃と腸 23巻10号 (1988年10月)

今月の主題 十二指腸乳頭部癌

主題

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要旨 胆道癌取扱い規約に基づく乳頭部癌の定義とその肉眼的形態分類法の考え方を紹介し,金沢大学第2外科学教室で経験した手術症例を中心にして十二指腸乳頭部腫瘍,なかんずく乳頭部癌の肉眼所見,進展様式や予後を検討した.胆道癌取扱い規約では,乳頭部の範囲を規定し,更に腫瘍の肉眼所見分類では,腫瘤型と潰瘍型とを規定して,そのほかに両者の混在型や特殊型をおいた.教室の拡大手術の方針で臨んだ1973年末以降の5年以上生存は8例69.8%に向上した.潰瘍型や潰瘍腫瘤型の進展度は腫瘤型に比べ膵浸潤,十二指腸浸潤,リンパ節転移,Stage因子ともに高く,その予後も悪かった.

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要旨 十二指腸ファイバースコープの機種改良と普及は,十二指腸乳頭部癌の早期発見に寄与するところ多大である.国立がんセンターで施行された十二指腸生検1,039検体を対象とし,術前生検と手術後の組織診断とを対比し検討した.その結果,問題点が幾つか浮き彫りにされた中で,まず第1に重要な問題は高分化型癌の偽陽性診断が起こることである.この部の癌は分化型腺癌が多く,これらと良性の腺腫との鑑別は,組織学的に甚だ困難なことがある.次に問題となるのは,標本が十分採取されていないことである.したがって,十二指腸乳頭部早期癌の診断精度を向上させるためには,集検などで異常が発見された場合には,臨床医はもちろん病理医も積極的な態度で診断に当たることが肝要である.

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要旨 十二指腸乳頭部癌切除例67例を対象として,特に組織学的に十二指腸浸潤のないd0の症例を中心に検討した.d0を癌浸潤が粘膜内にとどまるd0αと癌浸潤がOddi筋に達するd0βに分けて検討したところ,d0αではいずれもly(-),v(-),n(-)で,全例生存しており,またd0βになるとvは全例陰性で,ly(+)40%,n(+)20%であったが,予後は良好で,再発死亡例はなかった.更に癌浸潤がOddi筋を越えて浸潤(d1以上)すると,脈管侵襲やリンパ節転移が高率となり,膵浸潤も認められるようになり,再発死亡例もあり,遠隔成績は不良となった.したがって,現時点では十二指腸乳頭部早期癌とはリンパ節転移の有無を問わず“組織学的に癌浸潤がOddi筋内にとどまるもの”とするのが妥当と考えている.

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要旨 乳頭部癌43例について十二指腸内視鏡検査による存在診断,鑑別診断,更に進展度診断について述べた.肉眼形態は,日本胆道外科研究会による胆道癌取扱い規約第2版に従い,4型に分類した.43例中腫瘤型は30例(非露出腫瘤型11例,露出腫瘤型19例),混在型12例(腫瘤潰瘍型7例,潰瘍腫瘤型5例),潰瘍型1例であった.内視鏡検査の最も優れた点は直視下に生検できることであり,肉眼的に癌が確認されれば問題ないが,非露出腫瘤型のように癌が十二指腸粘膜に顔を出していない場合,11例中4例で癌が陰性であった.肉眼型とStageとの関係では,Stage Ⅰ症例は腫瘤型と腫瘤潰瘍型がすべてを占め,また,潰瘍形成が大きくなると腫瘍も大きくなり,Stageも進む傾向がみられた.

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要旨 68例の十二指腸乳頭部癌切除例(早期21例,進行47例)の検討から,68例中37例54.4%で癌腫が管内性に十二指腸壁外胆管内に浸潤し,68例中10例14.7%で管内性に膵頭部主膵管内へ浸潤しており,乳頭部癌の診断には膵胆管側からのアプローチが必要であることがわかった.胆管側からのアプローチはPTC,PTCS,胆管二重造影があり,他疾患との鑑別や胆管側への浸潤を診断できた.膵管側からのアプローチはPPD,副乳頭造影を含むERPによる膵管造影があり,高率に膵管像が得られ膵側への進展度診断が可能であった.EUSは腫瘍と十二指腸壁,胆膵管,膵実質を描出できるため腫瘍の浸潤が診断でき,また,転移リンパ節の指摘も可能であった.

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要旨 十二指腸乳頭部の解剖学的,生理学的特質からみて乳頭部病変では共通した多彩な病態を呈する.乳頭部腫瘍の鑑別診断では,乳頭部炎や乳頭部嵌頓結石などの非腫瘍性病変と画像などを中心として臨床的に鑑別を要する場合と,腫瘍自身の性質について組織学的に鑑別を要する場合とが考えられる.前者では鑑別は多くは困難ではないが,後者では特に乳頭部癌との鑑別が最も重要である.腺腫と腺癌との鑑別や異型性の判定に難渋する例も少なくなく,発癌母地との関係もあって病理組織学的に議論も多い.内視鏡的生検法の限界もあり,また,Group Ⅲの取り扱い方も不明確で,疑わしきは乳頭部切除にとどまらず,一期的に膵頭十二指腸切除術を行い,全割標本の検索に委ねるべきである.

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要旨 当科における乳頭部癌の手術症例は94例で,その切除率は81.9%であった.非切除例17例の平均生存期間は9.8か月で,膵頭十二指腸切除術耐術例70例の5年生存率は56.3%であった.耐術例の組織学的進展度と予後を比較検討し,乳頭部癌の予後を左右する因子について検討した.Oddi筋内に限局した乳頭部癌の予後は良好である.乳頭部癌の予後決定因子は十二指腸固有筋層浸潤,膵実質浸潤,リンパ節転移,脈管侵襲であり,特に膵実質浸潤例はリンパ節転移率,脈管侵襲率とも高率で予後不良であった.膵実質浸潤例は外科治療,放射線療法,免疫療法,化学療法などの集学的治療の併用の必要性が示唆された.

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 中澤(司会) 本日はご多忙のところを全国各地からご参集いただき,ありがとうございます.今日のテーマは十二指腸乳頭部癌です.日頃の先生方の臨床のご経験を気楽にお話しいただければありがたいと思います.

 乳頭部につきましては,既にご承知のように,肝,胆,膵の発生母地と言うか,その中心にあるわけで,そこはたかだか1~2cmの小さい臓器でありながら,相当強力な括約筋を持っているというところに特異的な作用があると思いますし,せいぜい1mmにも満たないような内腔から1日に1l,2lという相当大量の体液が出てくるというあたりも,生体の中では特異的な位置に当たるわけです.

今月の症例

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 〔患 者〕80歳,男性.心不全にて通院中に血便.シグモイドスコピーでS状結腸に易出血性のポリープがありポリペクトミー(病理診断は過形成性ポリープ)を施行.同時に粘膜に異常所見がみられ精査した.過去に大量下血や長期にわたる下痢,結核症の既往はない.

 〔注腸X線所見〕盲腸の変形・伸展不良は腸結核の治癒像に類似している(Fig. 1)(本症例の虫垂は十分に造影されていないが原因不明)。上行結腸,横行結腸のハウストラは正常で腸管の伸展も良好であり,ほぼ正常の所見である.横行結腸にはfine network patternもみられた.下行結腸は下部より次第に伸展不良となっている(Fig. 2).S状結腸は長く,下行結腸と重なり複雑であるが,非対称性の伸展不良がみられる.また,バリウムの付着が悪く辺縁が比較的強調されてみえる(Fig. 2,3,4).直腸もS状結腸と同様の所見であり,緩解期の潰瘍性大腸炎に類似の所見を呈している(Fig. 3,4,5).

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要旨 患者は55歳,女性.下痢が主訴で,上部消化管X線検査で乳頭部癌を疑われ入院した.低緊張性十二指腸造影では乳頭部に直径4.3cmの陰影欠損があり,腫瘤は微細な顆粒と結節で構成される.内視鏡的には乳頭部は腫大し,一部のイクラ様の結節と,ほぼ平滑だが近接するとブツブツした小顆粒より成る腫瘤である.生検では高分化型管状腺癌であった.早期乳頭部癌と診断し膵頭・十二指腸・胃・胆囊切除術を行った.腫瘤は3.0×3.5×4.0cmで開口部はわずかに離れている.腫瘤と総胆管開口部は正常な十二指腸粘膜で隔てられていた.したがって,早期乳頭部癌に酷似した早期十二指腸癌であった.

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要旨 患者は76歳,男性.主訴は食欲不振.病悩期間は約1年.入院時の理学的ならびに臨床検査所見では特記すべき所見は認められなかった.胃X線,内視鏡および生検組織診断で十二指腸球部癌と診断し手術となる.切除標本は十二指腸球部前壁に扁平隆起性病変を認めた.病理組織検査では病変は分化型腺癌でBrunner's gland内に浸潤してgland上皮を置換していく形で粘膜下層に浸潤している.リンパ節転移は認められなかった.

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要旨 患者は56歳,男性.検診の胃X線検査で胃角の異常を指摘され来院した.胃X線,内視鏡検査で胃角小彎を中心に広範囲に不整形の丈の低い隆起の拡がりを認め,その内部に瘢痕様所見を認めた.生検で高分化型腺癌を認め,胃全摘術を施行した.切除胃肉眼所見では胃体部から前庭部にかけて小彎を中心に7.8×7.0cm大の丈の低い隆起を認めた.病変の辺縁部では隆起が強く,中央付近では軽度陥凹していた.病理組織学的所見では,高分化型腺癌で,一部でわずかにsmに浸潤していた.われわれの施設では,隆起性表層拡大型胃癌は8例あり,本症例のごときⅡa+Ⅱc型胃癌の6例はすべてsmであり,Ⅱa集簇型の2例はmであった.

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要旨 患者は51歳,女性.主訴は心窩部痛.X線・内視鏡検査にて胃体部小彎から後壁の広範なⅡcと,その周囲の粘膜ひだの異常を認めたため,伸展良好なlinitis plastica型と診断し,手術を施行した.手術所見はS0,N4,P2,H0で両側卵巣に転移を認めた.病理組織所見は原発巣の直接浸潤が粘膜下層に止まった未分化型胃癌(Ⅱc型)で,粘膜下層を中心に広範囲にリンパ管侵襲を伴っていた。術後14か月で癌性腹膜炎のため死亡した.X線・内視鏡診断の立場で,癌性リンパ管炎による粘膜あるいは粘膜下層の浮腫性変化,つまり実際的には原発巣周囲の粘膜あるいは粘膜ひだの異常を捉えることが大切である.

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要旨 患者は34歳の女性で,下痢,下血,下腹部痛を主訴に入院した.入院時,大腿内側にpyoderma gangrenosumが認められた.注腸X線および内視鏡検査で直腸から下行結腸に多発する不整形の深掘れ潰瘍とびまん性の炎症所見が認められた.保存的治療を試みたが病勢が進行したため,10日後に左半結腸切除術(Hartmann術式),更に,1週間後に直腸切断術を施行した.切除標本では肉眼的に上部直腸の一部を除き,粘膜はほとんど完全に剝脱していた.組織学的には特異性炎症像や血管の閉塞所見はなく原因不明の粘膜の広汎な壊死性病変であり,その臨床像から考えて,本例はpyoderma gangrenosumを合併した壊死型虚血性結腸直腸炎と診断した.

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要旨 患者は18歳,男性.心窩部痛を主訴とし近医を受診,血清elastase 1の異常高値を指摘され当科で精検,初回のERCPで頭部主膵管の不整狭細化を認め,膵外分泌機能試験(セクレチン試験)でも3因子の低下をみた.血清elastase 1は異常高値が持続し,1年後に正常化した.慢性膵炎として経過観察中,排便時出血が出現し,直腸炎に続き全大腸炎型潰瘍性大腸炎を発症した.更に第2回のERCPでは膵管像の異常は著明に改善した.患者は若年者であり,ほかに膵炎を起こす素因もないことと,膵管像の異常が改善したという特殊な経過から2つの疾患の間の病因上の関連が示唆された.

初心者講座 食道検査法・10

内視鏡精密検査法 神津 照雄
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はじめに

 最近の内視鏡関係の学会では食道疾患に関する演題が多くなってきた.この理由は内科系の医師が食道疾患に興味を持ち始めてきたことに由来する.その背景には,1978年ごろより上部消化管の内視鏡検査が側視鏡から直視型スコープによるパンエンドスコピーに変わってきており,従来の胃内視鏡検査の際,見ていなかった食道をスコープ挿入・抜去時に観察する機会が多くなったことが挙げられる.本講座の主題である食道内視鏡精密検査とは病変の存在診断以外の,その疾患に対する治療上必要な情報や,その疾患の新しい病態解明に繋がる情報を提供してくれる検査法と考えている.食道疾患の中には,色素散布法の併用により,1回の食道内視鏡検査で精密検査まで終了してしまうものもある.そこで本講座では食道疾患のうち,内視鏡でこういうところを重点的に見なければいけないと筆者らが日常考えているポイントについて述べる.始めに食道内視鏡検査では不可欠な色素散布法の手技を説明し,各食道疾患の内視鏡精密検査法を報告する.

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 竹原 US画像に現れるアーチファクトや注意すべき点は4つか5つあります.

 1つは,超膏波ビームは幅が広いものですから,隣にあるものが重なり合って描出されるということです.例えばFig. 2に示したように十二指腸が胆囊の中に写って,隆起性病変のように見えることがあります.また,近接している石灰化が一緒に胆管の中に描出されて胆管結石のように写ることがあります.この点は注意しなければならないと思います.

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欧文目次

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 本書は,主として学生を対象にした教科書である.

 教科書に必要な条件が幾つかある.それには,1)将来どのような分野を専攻しようとも必要な,基本的事項は完全に網羅する,2)放射線科を専攻しないときには必ずしも必要でない,専門的すぎる事項を削除し,実地臨床に即して取捨選択し,より簡潔にする,3)異常陰影のパターンから,鑑別診断を挙げ,更に必要な検査を手順よく行っていく思考過程を重視する,4)ベッドサイドへ持ち込めるようにhandyである,などが挙げられる.

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編集後記 小越 和栄
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 「十二指腸乳頭部癌」の特集に当たって種々の議論がなされた.その編集の方針を決める際,十二指腸乳頭部癌は管腔臓器の癌がたどってきたと同様に,組織診断やその分類に種々の問題を有していることが明らかになり,今回はこれらに焦点を当てることとした.

 十二指腸乳頭部癌の特徴は,他の管腔臓器の癌とは異なって機能不全に結びつきやすいことである.したがって,乳頭部癌が早期に見つかりやすかったり,予後が良いことなどにも影響ありと考えられる.

基本情報

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胃と腸
23巻10号 (1988年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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