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Ⅰ.はじめに
経頭蓋集束超音波の概念,つまり超音波を頭に当てる,それを1カ所に集める,そして熱を得る,という概念が最初に報告されたのは,1944年のことである.Lynnらは「Histology of cerebral lesions produced by focused ultrasound」と題した報告の中で,「超音波は吸収されると熱を生む」,「超音波が集まる場所ではさらに高い熱が産生される」,そして「集束超音波は局所に集まり,熱の産生はその局所のみである」という集束超音波の特性を示した11).
この,脳を局所的に超音波で温熱凝固させるという概念を基に,経頭蓋集束超音波は長年にわたって研究されてきた.Meyersらは,Fryらが開発した“high-intensity focused ultrasonic apparatus”を用いて,第1例目の手術を行った.これが,“Neurosonic surgery”(当時の呼称)の始まりであり,その1例の経験は,その後1959年にJournal of Neurosurgery誌に報告された15).また,本邦においては,1957年に岡らがMeyersらの報告をもとに,凸レンズを用いて超音波を集束させ,選択的局所脳凝固治療を実施したのが初めてであった16).
さて,医療における超音波は,頭蓋以外の組織では,まず診断目的の用途で普及し,軟部組織のスクリーニング精査だけではなく,心臓の動態検査として発展した.一方,脳神経外科領域ではX線CT,MRIが台頭し,超音波は骨により遮られるため頭蓋内の検査としては発展しなかった.また,集束超音波も頭蓋骨で吸収や偏向が発生し,大きな開頭による骨除去が必要であり,その高い侵襲性のため頭蓋内への応用の実用化は不可能と思われていた.
しかし,その後半世紀を経て,CTとMRIで頭蓋骨や脳の解剖学的情報と温度情報をリアルタイムに測定することが可能となり,この機構を用いて超音波の集束を制御することができるようになった.また,覚醒下で臨床使用することができるようになり,経頭蓋集束超音波技術の実用化に至った.
本稿では,CTの骨画像による超音波の集束の制御,およびMRIによる脳の解剖学的位置と脳温モニターを統合した,経頭蓋MRガイド下集束超音波治療(magnetic resonance-guided focused ultrasound surgery:MRgFUS)について紹介する.経頭蓋MRgFUSは,当初は米国,カナダに始まり,韓国,日本,欧州に導入され,主に本態性振戦をはじめとする振戦疾患に対して,その安全性と有効性が報告された.現在われわれは,MRgFUSの局所性ジストニアに対する前向きfeasibility臨床試験(視床腹吻側核),パーキンソン病に対する淡蒼球視床路凝固術(ForelのH2野),てんかんに対する凝固術(hamartomaなど)を開始している.本稿では,経頭蓋MRgFUSによる定位視床凝固術の導入初期経験,各種疾患に対する臨床研究を紹介し,今後の経頭蓋MRgFUSおよび定位機能外科の展望について述べる.
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