Neurological Surgery 脳神経外科 46巻11号 (2018年11月)

癌の見逃し 堤 一生
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 脳神経外科の診療とともに病院の医療安全を担当して7年ほど経つが,「癌の見逃し」は古くて新しい問題の1つである.「癌もしくは癌疑い」は,病理診断もしくは放射線診断の結果であるが,見逃しが問題となるのは後日進行癌となった時,以前のカルテに「癌もしくは癌疑い」のレポートがあり,それが見逃されていた場合である.主治医がレポートを読んでいなかったことが最多の理由であるが,なかには患者が受診せず検査結果が宙に浮いた場合や,担当医が交代して主治医のカルテ記載が継承されなかった場合などが報告されている.

 病理の結果に関しては,陽性所見である「癌もしくは癌疑い」例にしぼって,病理診断レポートを担当医がチェックしたかどうかを電子カルテ上でチェックし,担当医のチェックがなかった症例を医療安全室がフォローアップする仕組みを作ってみた.月に10件前後であったが,後日ほとんどに適切な対応がとられていた.今までに2件,見逃しにつながり得る事例があり,主治医に感謝された.2例とも外来患者で,生検後の外来受診時には病理の結果がまだ出ておらず,次回の受診を指示していたが,患者が受診していないケースであった.医療側のみの責任とは言えないが,見逃しを防止できた例である.

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Ⅰ.緒  言

 非弁膜症性心房細動(nonvalvular atrial fibrillation:NVAF)による脳卒中ないし全身塞栓症の予防に対する直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)の有効性・安全性は確立している3,10,11,29,33).ワルファリンと比べてDOACは効果の発現が早く,薬剤や食事との相互作用が小さい5,34).また,アジア人はワルファリンによる頭蓋内出血合併が非アジア人より多いため37),ワルファリンよりも頭蓋内出血が少ないDOACは33),日本人において特に有利な選択肢と考えられる.

 2011年以降,トロンビン阻害薬のダビガトラン,第Ⅹa因子阻害薬のリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンという4つのDOACが市場に登場し,広く使用されている.脳卒中二次予防におけるDOACの有効性・安全性は確立しているが7,8,13,32),急性期に直面する問題として,“いつ”抗凝固療法を開始するのか?という問いがある.ワルファリンの開始時期にしても高度のエビデンスはまだない.DOACの有効性・安全性を示した4つのランダム化比較試験(RCT)では,発症から7〜30日以内の急性期脳卒中患者が除外された3,10,11,29).そのため,頭蓋内出血リスクが低く,逆説的な凝固促進効果がないことから2,33),急性期においてワルファリンより有利と思われるDOACについても,“いつ”から開始するのが適切なのか,明確な指標はない.

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Ⅰ.はじめに

 現在,日本の骨粗鬆症患者は1,280万人程度とされており,50代以上の女性に関しては3人に1人が骨粗鬆症と言われているが,医療機関にて治療を受けているのは5分の1にも満たない1,9,10).また骨粗鬆症が原因で新規圧迫骨折を起こす人は年間97万人程度いると言われており,圧迫骨折後に全身状態の悪化によりQOLの低下や将来的な死亡率が高まることが報告されている6-8).このように,骨粗鬆症および圧迫骨折は,医療費,介護費の面からも対処すべき課題であり,見過ごすことができない疾患である.

 治療方針は施設間での差が大きく,骨粗鬆症に関してはガイドラインや指標が提唱されているが,圧迫骨折に関しては外固定の必要性,治療期間,外科的治療介入のタイミングなどはっきりとした指標がないのが現状である.外科的治療の1つであるバルーン椎体形成術(balloon kyphoplasty:BKP)は2011年に保険適用となり,日本国内でも広まりつつある.低侵襲かつ疼痛コントロールに優れ,バルーン拡張による脊椎アライメントの改善も期待できる治療法である.しかし治療の明確なタイミングについては定められていない.一般的には,外科的治療の適応を判断する前に,6〜8週間の十分な保存的加療を行っていることが多いが,高齢者においては疼痛による臥床期間の延長によりADLが低下することが懸念される.今回われわれは,亀田総合病院(以下,当院)における圧迫骨折の治療戦略および早期BKPの有用性について検討を行った.

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Ⅰ.はじめに

 甲状腺癌の組織型別発生頻度では,乳頭癌92.5%,濾胞癌4.8%,髄様癌1.3%,未分化癌1.4%と,圧倒的に甲状腺乳頭癌の頻度が高い15).甲状腺乳頭癌の脳転移は0.8〜1.3%5,11,26)と稀であり,その病態,予後や治療法については定まった見解が得られていない.今回われわれは,甲状腺乳頭癌を原発とする転移性脳腫瘍に対して開頭腫瘍摘出術を施行した5例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.緒  言

 非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)患者におけるdirect oral anticoagulants(DOAC)に関するrandomized controlled trial(RCT)において,塞栓性脳梗塞の予防効果はワルファリンと同等とされており,出血性合併症のリスクは減少すると報告されている1,3,4,10).これらのRCTを参考にして,脳卒中治療ガイドライン2015では,NVAFのある脳梗塞または一過性脳虚血発作の再発予防としてDOAC治療が推奨されている7).しかしながら,いずれの抗凝固療法でも頭蓋内出血のリスクは存在し1,3,4,10),最近はDOAC内服中の外傷性頭蓋内出血の臨床経過も報告されている2).今回,われわれは無症候性の亜急性期外傷性硬膜下血腫の保存的観察中におけるダビガトランによる塞栓性脳梗塞の予防,および頭蓋内出血増悪時においてダビガトラン中和剤のイダルシズマブが外科的治療に有効であった症例を報告する.

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Ⅰ.緒  言

 頭部外傷に伴う内頚動脈-海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)は稀に遭遇する疾患である.多くは海綿静脈洞(cavernous sinus:CS)を貫通する頭蓋内硬膜外内頚動脈(internal carotid artery:ICA)の損傷による直接的な動静脈シャントを形成することが原因となるが,ごく稀に硬膜内ICAが仮性動脈瘤を介してCSと瘻孔を形成することが報告されている.これは受傷後2〜3週間内に致死的な頭蓋内出血を来す可能性があり,迅速かつ適切な診断および治療が要求される.今回われわれは,重症頭部外傷で発症し,急速な増大傾向を示す硬膜内ICA仮性動脈瘤を伴う外傷性CCFに対して,Low-profile Visualized Intraluminal Support(LVIS)stentを併用したコイル塞栓術で治療した1例を経験したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 穿通性頭部外傷は,全頭部外傷の0.4%と比較的稀な外傷であり6),異物の性状,刺入経路などによって病態がそれぞれ異なるため,症例ごとに個別の対応が必要となる.本邦では箸・傘・ガラスなどによる外傷の報告が多いが1),われわれの渉猟し得た限り,大型の刈り込み鋏による報告はない.今回,大型の刈り込み鋏が鼻腔を貫通し前頭蓋底に到達し,さらに前頭蓋底を貫通して頭蓋内損傷を来した1例を経験した.本症例では,外科的治療により良好な治療成績が得られたので,若干の文献的考察とともにその治療方針について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Benedikt症候群は,一側の中脳赤核近傍の病変により同側の動眼神経麻痺と対側の特徴的な不随意運動を呈する稀な病態である5-7).今回われわれは,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)で発症した破裂脳底動脈上小脳動脈分岐部瘤に対するクリッピング術後にBenedikt症候群を呈し,その後自然軽快した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Computed tomography(CT)は,magnetic resonance imaging(MRI)よりも頭蓋底領域における骨破壊や出血を把握することが容易である.また,病変の変化を追跡し,治療の適応や治療時期を決定するのに有用である9).一般的に頭部病変のCT値が急激に高くなる場合,出血に起因することが多い.一方,短期間でのCT値の低下は,浮腫や髄液流入,空気の混入などが考えられる.今回われわれは,副鼻腔粘液囊胞が急性増悪し,囊胞部位のCT値が異常高値から突然に低下した症例を経験した.また,本症例は下垂体腫瘍合併例で,同時期に下垂体出血も併発していた.このように特異な画像所見と経過を示した症例について,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 66歳 女性

 既往歴,家族歴 特記事項なし

連載 日常診療に役立つ“頭部外傷”のminimum essence

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Ⅰ.神経集中治療とは

 神経集中治療(neurocritical careあるいはneurointensive care)の目的は,神経学の知識を背景とし,さまざまな侵襲的・非侵襲的モニタリングを駆使して頭蓋内環境を最適化することにより,脳損傷を最小限にとどめて重篤脳損傷患者の転帰改善を図ることにある39).このため,担当医—neurointensivist—は脳神経と全身臓器の病態生理に精通し,関連各職種を統括して集学的治療を行う30).傷害された脳の病態・生理に即した呼吸・循環・代謝の全身管理は,脳指向型集中治療と換言できる34,37).逆に,脳損傷がもたらす全身への影響も看過してはならない29)

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目次

欧文目次

「読者からの手紙」募集

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 伊達 勲
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 本号の「扉」には,堤 一生先生から「癌の見逃し」をいただいた.最近,マスコミを賑わしている医学関連ニュースの1つである.病理診断や画像診断の発達に加えて,電子カルテが一般的になったことで,担当医自身が治療対象としている疾患以外の領域の癌についてのカルテ内の報告を見逃す,というリスクはどの医療施設でも抱えている問題である.堤先生は医療安全担当として,病院内で行っている種々の工夫について,どのようにリスクを減らそうとしているかの具体例を示してくださっている.私の大学病院でも似たような案件があり,身につまされる思いである.効率よくダブルチェックを行い,癌の見逃しがゼロになるように努力したいものである.

 国立循環器病研究センターの田中寛大先生からは「虚血性脳卒中の急性期管理におけるDOAC」の総説をいただいた.DOAC投与をいつ開始するか,どのDOACを使うか,抗血小板薬との併用はどうするか,血管内治療とどう組み合わせるか,など脳神経外科医が聞きたい話題を網羅した読み応えのある総説である.その他本号には,研究論文,症例報告,連載などが掲載されており,秋の夜長にじっくり読んでいただきたい.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻11号 (2018年11月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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