Neurological Surgery 脳神経外科 43巻11号 (2015年11月)

脳動脈瘤の手術教育とIT 水谷 徹
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 脳動脈瘤の開頭術者の教育をライフワークの1つとしているが,その中で日頃感じていることは,脳神経外科では,スペシャリティーの分化が進み2階建て部分の専門医も増えてきている中で,脳動脈瘤の治療においては,血管内治療が専門医,指導医の体制を手厚く敷いている一方,開頭術においては,そのようなものはなく,資格もないし教育体制もばらばらであるということである.そこで開頭術にも教育体制と,基本技術の指導をしっかりすることが大切だと考えてきた.特に未破裂脳動脈瘤の開頭術を安全確実に施行するためには,開頭から,無血の術野を意識し,両手を使い,脳を牽引するよりベストの視野角を意識し,ハサミの両先端が見える状態で切ること,クリップは最後まで先端が見える角度で挿入すること,マイクロ操作では,手が安定するような術者のポジション,手の置く位置を意識することが大切だと,最近は講演,学会,著作で,述べさせていただいている.手がふるえるという場合,緊張ばかりではなく,やはり不安定なポジションになって,手首の角度などが不自然であることが多い.このような自覚をもつと,ある程度矯正が可能だということを実感している.

 手術を覚えるためには,手洗いに参加しない時にでも,手術室に足を運び,術者のポジション,体位どり,開頭を見て,また,術者と助手,周囲との会話や作戦を現場で共有していくことが最も大切であるということをまず断っておきたい.一方で,血管内治療も増加し,脳動脈瘤開頭術の個人の経験数は減少している中で,手術教育上の大きなプラス面は,動画,画像,ネットワークなどのITによる手術支援システムのめざましい発展であると思う.

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Ⅰ.はじめに

 コンピュータ支援外科という概念は,脳神経外科の手術で最も早くから実用化された.1970年代に発明されたCTスキャンの出現を境に,脳の病変はそれまでの2次元面への投射画像から一気に3次元データとして立ち現れた.これを手術中にも3次元データとして扱おうとする研究・開発が進められ,術中に観察している部位をCTやMRI上に表示して,道を間違わないようにするという方法があみだされた.ニューロナビゲータの出現である1,3,9).3次元データはさらに3次元再構成画像がルーチンとなるに至り,術前シミュレーションに欠かせないものとなった.近年,3次元データのもう1つの活用方法として,3Dプリンターの普及が第3の道を作りつつある.本稿ではその応用の一端を概説し,3Dの将来像を読者と共有したい.

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●経鼻頭蓋底手術を施行する脳神経外科医に必須のテキスト

 本書は経鼻的内視鏡下下垂体・頭蓋底手術を行う脳神経外科医に必須の書籍である.これから本法を学ぼうとする若い医師から習熟したベテラン医師まで,すべての術者にお薦めする.

 私は,経鼻内視鏡下単独頭蓋底手術を始めた2006年に,東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科の鼻内内視鏡研修会を見学させていただいた.東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科は1992年よりいち早く本領域の研修会を開催し,日本でも一番の歴史を誇っていた.熱気あふれる解剖学教室で,3日間にわたり教室の先生方が,全国からの若い先生方を丁寧に教育・指導されていた.一番印象に残っているのが,森山寛先生のライブサージェリーのデモンストレーションであった.その数十分に及ぶ操作の間,内視鏡先端をほんの1,2回だけ洗浄しただけであった.とてもきれいな手術野であった.

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●臨床研究を行う研究者,医学論文をひもとく臨床医は必読! 医療統計学珠玉の指針がここに

 “数式を使わないで直観的に学ぶ”『今日から使える医療統計学ビデオ講座』で,精力的にわかりやすい情報を発信されてきた新谷歩教授の医療統計への慧眼と熱き思いが,単行本として結実し上梓された.基礎および臨床医学研究大国である米国で生物統計学者として20年の豊富なキャリアを重ねてきた著者が,医療統計の重要なテーマに関する極意を例題/具体例を活用し,読み物形式で伝授してくれる.これまで医療統計の本に構えてしまった読者でも,数時間もあれば楽しく講義を受けている感覚で一気に読めるだろう.

 本書を読み進めていくと,2003年から2年間ヴァンダービルト大学大学院の臨床研究科学マスターコースで新谷教授から医療統計の講義・演習を受けた際の衝撃が鮮烈に蘇ってきた.グラフィックやイメージを多用し実例を基に医療統計の概念や前提条件を教えてくれる講義は,医療統計学に対する見方が一変,目から鱗が落ちる連続で,楽しみながら医療統計に関する知識・スキルを習得することができた.新谷教授は,研究者としてはもちろん教育者としても一流で,そのユニークな統計教授法には定評があり,ヴァンダービルト大学でベストティーチングアワードを受賞している.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内血管に対する血管内治療において,術中に遭遇するトラブルとして,血栓塞栓症,内膜解離,攣縮などが比較的頻度が高い.一方で,頻度は低いものの,稀にマイクロカテーテルやマイクロガイドワイヤーによる動脈穿孔に遭遇することがある.脳動脈瘤塞栓術施行時の術中瘤壁穿孔に関しては,穿孔した際の状況に応じてさまざまな対処法が成書に記載されている.しかし,血管の穿孔損傷における状況評価と対処法,予防法などに関しては,具体的な報告が意外に少ない.今回われわれは,2つの異なるタイプの病態における血管損傷例を参考に,その対応に関して考察したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 小児,特に乳幼児の期間は転倒・転落による頭部打撲の可能性が高く,救急外来などでも頻繁に遭遇する.そして画像診断機器の普及が進んでいる本邦では,この病態に対してCTを撮影する機会も多いと思われる.

 しかし特に乳幼児期の放射線被ばくは発がん性の観点などからリスクが高く,頭部CT撮影による被ばくについても論文が出されている.

 小児の頭部外傷でどのような症例にCTを撮影すべきであるかについては,米国からはPediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)による多施設共同研究でアルゴリズム7)が示されており,英国ではNational Institute for Health and Care Excellence(NICE)によってCT撮影のガイドライン12)が設定されている.ほかにもいくつか基準はあるが本邦には同様の基準はないため,今回当院での2008年から2014年にかけて受診した1,268例の乳幼児期頭部外傷の経験から,上記2つの基準が妥当なものであるかを検証し,考察した.

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Ⅰ.はじめに

 頚動脈狭窄に対する頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)は,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)とならび,標準的な治療手段となってきている.どちらの治療法でも再発は起こり得るが,CAS後の再狭窄,閉塞は2年で6〜12%程度に起こるとも報告されている3).症候性または高度再狭窄には再治療が行われ,血管内治療が有利であるが,周術期の脳梗塞や長期成績が問題である.今回,CAS後の内頚動脈狭窄に対し,stent-in-stentingを施行し,その後2年以上patencyの維持に成功した2例を経験したので文献的考察も加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 担癌患者において,血液凝固障害が生じることで脳梗塞を発症することはよく知られている1-3,6,7,14).担癌患者に無症候性頚動脈狭窄病変が発見された場合,脳梗塞を発症する危険性がさらに高くなる可能性もあるが報告が少なく,一定の見解は得られていない.

 今回われわれは,頚部内頚動脈狭窄症を有する進行胃癌患者において,意識障害を伴う運動麻痺症状が出現したため緊急頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)を行い,良好な経過が得られた症例を経験した.担癌患者において頚部内頚動脈狭窄症が発見された場合の患者の管理について示唆に富む症例と考えたので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 もやもや病は,両側内頚動脈終末部に慢性進行性の狭窄を生じ,代償的に脳底部に異常血管網が形成される原因不明の疾患である11).一方,川崎病は乳児および幼児において原因不明の系統的血管炎を主体とする疾患であり6),活動期に稀ながら脳梗塞を合併する4,7,12,15,17).川崎病活動期のもやもや病合併の報告はないが,川崎病罹患歴のあるもやもや病の報告がある1,3,8,9,13,14).今回,川崎病の既往があるもやもや病3例を経験したので,文献的考察を交えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 近年,胸腹部の大動脈瘤や大動脈解離に対する血管内治療としてステントグラフト内挿術が発展している2).今回われわれは大動脈解離に対して弓部にステントグラフトを留置し,同時に鎖骨下動脈と総頚動脈に人工血管でバイパスを施行された症例で,2年後に脳梗塞を来し,塞栓源の可能性となり得た人工血管の狭窄に対してpercutaneous transluminal angioplasty(PTA)およびstentingを施行し,良好な経過を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)はSAPPHIRE studyの結果を受け15),日本で2008年4月に健康保険収載となった.2010年のCREST2),ICSS4) studyを受けて2011年のAHAガイドライン5)ではCASの適応がcarotid endarterectomy(CEA)high risk患者のみでなく,average risk患者にまで拡大した.米国においては内頚動脈狭窄の血行再建においてCASの占める割合は増加してきており3),米国よりもCEA件数の少ない日本ではCASは重要な治療法である13).大規模臨床研究である2010年のICSSでは,治療から30日以内の周術期脳卒中はCAS群で7%, CEA群で3.3%と報告され,そのうち術当日に発症する割合はCAS群で74%,CEA群では44%と報告された.CASの合併症の多くは周術期に生じる脳梗塞で,治療成績を低下させる大きな要因だった4).CAS当日の脳梗塞を減らすため,年齢,高血圧の有無などの患者の臨床背景14)や総頚動脈からの内頚動脈分岐角度などの血管解剖所見を検討したり9),CAS high risk患者の術前同定のためのプラーク診断や16),末梢塞栓予防をより確実にするためのプロテクションデバイスの選択6,9)などの努力がなされてきた.また,CAS施行時の術早期脳梗塞の予測因子に関するtranscranial Doppler(TCD)を用いた研究では,後拡張は微小塞栓が多く確認される独立危険因子であるとの報告がある1).CASの各手順においてTCDを施行して微小塞栓の数を確認した他の研究でも,すべての手順の中で後拡張はステント留置操作に次いで末梢塞栓が多く観察された11,12).それゆえ,後拡張を省略すれば末梢塞栓性合併症の減少につながる可能性がある.実際に後拡張を省略してCASを施行している報告もある7).自己拡張型ステントの場合,留置後の自然拡張も期待されている.しかし,留置されたステントがどの程度自然拡張するのかを調査した報告は少ない.現在当科では,後拡張を行わないことをCASの原則としているので,後拡張を行わなかった自己拡張型ステントがどの程度自然拡張したかを後方視的に調査した.

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 2015年6月7〜11日(5日間),パシフィコ横浜にて12th International Stereotactic Radiosurgery Society Congress(第12回国際定位放射線治療学会学術大会)を主催させていただきました.本会は2年に1度の脳定位放射線手術および脳・体幹部高精度照射治療における世界最高峰の学術大会であり,日本への招致開催は2003年に髙倉公朋会長のもとで初開催されて以来,実に12年ぶりとなりました.初日の開会式では,名誉会長・髙倉公朋先生,日本脳神経外科学会理事長・嘉山孝正先生,日本放射線腫瘍学会理事長・西村恭昌先生よりご祝辞をいただき,引き続き「日本の匠たち」と題する,世界的に著名な日本人医師による記念講演(東京大学・斉藤延人先生,群馬大学・中野隆史先生,東京女子医科大学・岡野光夫先生)により晴れのスタートとなりました.

 第2日目以降の学術セッションでは,大会テーマに「Meet the Experts and Share the Experiences」を掲げ,従来の定位放射線治療専門医師・医学物理士のみによる学会とはせず,関連各専門分野医師と直接交流し,今後の疾患治療戦略について討議・結論できるオープンな学会運営を目的として企画構成を進めていきました.「ディベートセッション新設」と「教育プログラム充実」の2つのコンセプトを柱として一般応募演題に加え,総計470演題・参加者総数600名にのぼり,過去12回の大会において1,2を争う盛会となりました.特に,一番のメイン企画「Main Debate Symposium」では,定位放射線治療専門医師および関連診療専門医師の間において,直接的討議が必要な4疾患トピックス(悪性グリオーマ・手術困難頭蓋底腫瘍・転移性脳腫瘍・機能性および精神疾患)について白熱した議論が繰り広げられたことは非常に印象的でした.

連載 脳腫瘍Update

(1)脳腫瘍疫学の変遷 渋井 壮一郎
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Ⅰ.はじめに

 CT,MRIなどの非侵襲的検査の普及とともに,無症候性の脳腫瘍が発見されることも多くなった.これらの検査により偶発的に発見される脳腫瘍としては髄膜腫や下垂体腺腫のような良性腫瘍が多い31,40).その確率は1%前後と報告されているが,悪性腫瘍を含めた全脳腫瘍の罹患率を知ることは実際には困難であり,各国で行われているいろいろな脳腫瘍統計においても,治療が行われ診断が確定した症例が登録されている.本稿では,日米のデータの比較を中心に,脳腫瘍疫学の現状と変遷について検討を行う.

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欧文目次

お知らせ

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 斉藤 延人
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 今年もまた,ノーベル生理学・医学賞を日本人が受賞しました.北里大学の大村智特別栄誉教授は,土壌から新種の放線菌を発見し,これが抗菌薬や抗寄生虫薬の開発につながったというものです.WHOのworld health reportによると,世界規模でみた死因の第1位はいまだに感染症で,マラリアなどに代表される寄生虫感染症に多くの方が苦しんでおり,大村先生の受賞は,病気から救われた人の多さが1つの尺度になっているように思われます.報道による情報では,たくさんの土壌を採取して解析するという力仕事で,しかもそれが人類に大きく貢献したという点で,われわれ脳神経外科医も共感を覚えるところがあるように思います.また,先進国においては感染症のかわりに脳卒中が同じくらい大きな課題であり,画期的な治療法の開発などが求められているわれわれの領域にもよい刺激になったように思われます.

 さて,本号の「扉」では,昭和大学の水谷徹教授が「脳動脈瘤の手術教育とIT」と題した寄稿をされています.脳動脈瘤手術教育をライフワークの1つとされる水谷先生が,無編集のハイビジョン動画ファイルで学ぶことの重要性と方法について紹介されています.総説では,自治医科大学の渡辺英寿教授が「脳神経外科における3Dプリンターのインパクト」と題して解説されています.3Dプリンターの活用方法を網羅的にご紹介いただき,また,開発中の内容にも触れられています.また,新連載として「脳腫瘍Update」が始まりました.その第1回は,帝京大学溝口病院の渋井壮一郎先生による「脳腫瘍疫学の変遷」です.脳腫瘍全国集計のご経験などをもとに,各国の状況などもご紹介いただいています.今後のこのシリーズの展開にもご注目ください.その他にも,今回は研究論文を2編,「血管内手術における頭蓋内動脈穿孔時の対処」と,「乳幼児軽症頭部外傷のCT撮影基準—当院の459例のCTから—」を掲載しています.また,症例報告が5編で今回はいずれも血管障害系の論文となりました.報告記では東京女子医科大学の林基弘先生が主催された国際学会が紹介されています.充実した内容が満載の本号が読者諸氏に刺激を与えることを期待しています.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
43巻11号 (2015年11月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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