日本看護科学会誌 28巻4号 (2008年12月)

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要旨

 徳の倫理と原則の倫理は,看護・医療の倫理における最も主要なアプローチである.原則の倫理は行為を,徳の倫理は行為者の性格や態度を吟味し,これらは互いに補いあって機能する.徳の倫理は,1970年代の原則の倫理台頭で衰退したが,最近の海外文献はその復興を示している.日本では,医学上の問題や原則の倫理が,看護倫理教育の中心であると報告されており,徳の倫理への関心は高くない.それは,専門職としての看護の発展を妨げていた,かつての徳の倫理への記憶が今に影響しているためかもしれない.本稿は,徳の倫理に新たな光を当て,看護におけるその重要性を述べる.著者らの研究知見を用いつつ,次の点を強調する:1)時代の求めとともに変容する看護師の徳・資質探求の重要性,2)看護実践の状況・文脈および看護師の語りは,徳の倫理の教材として有用であること,3)徳の倫理の看護師への文化的適合性,および4)看護倫理教育における対話の重要性.

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要旨

 Time Trade-Off(TTO)法は,HRQOLを総体的に測定する方法のひとつである.

 TTO法により,糖尿病患者を生存期間が短くなるが病気のない健康な状態で過ごしたい交換者,現在の糖尿病の状態のまま今後も過ごしたい非交換者に分けた時,前者にHRQOLの評価は低い.

 目的:交換者になる確率を上昇させる要因を検討することである.

 方法:112名の糖尿病患者から研究の同意を得た.TTO法と質問紙法を用いた.

 結果:1) TTO法の結果,糖尿病患者で42名(37.5%)が交換者で,70名(62.5%)が非交換者であった.2) 13項目からなる質問紙を用いて,糖尿病と治療法の患者の日常生活に与える否定的な影響を因子分析法を用いて検討した結果,「活動制限による孤独感」「病状悪化による精神的負担」「病気による可能性のない将来」「食事療法による精神的負担」の4因子が抽出された.3) ロジスティック回帰分析の結果,「病状悪化による精神的負担」「食事療法による精神的負担」の2因子,「身体的自覚症状がある」は交換者になる確率を上昇させる要因であった.

 結論:交換者において,病状悪化や食事療法に対する精神的負担の軽減,身体的自覚症状の軽減などの援助の必要性が示された.今後は,これら3要因と非交換者との関係を検討したい.

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要旨

 目的:セルフマネジメント能力の獲得によって生活スタイルの是正と冠危険因子の除去を図る包括的心臓リハビリテーションプログラムを作成し,その効果を検討した.

 方法:2病院に通院する虚血性心疾患患者46名にプログラムを適用し,看護師と管理栄養士が月1回30分の面接と月1回電話モニタリングを行う,非ランダム化前後比較試験を実施した.

 結果:初回に7名が中断したが,39名は最後まで継続し(完了率84.8%),すべての指標が改善・向上した.特に,体重,腹囲,HbA1c,食事・運動目標達成率,QOL,自己効力感は統計的に有意に改善した.抑うつを示す者とタイプA行動と評価される者の数が減少した.目標達成率と自己効力感の向上,ステージの変化が連動しており,関連性が示唆された.

 結論:セルフマネジメント能力の獲得が冠危険因子の是正とQOLの向上につながることが示唆され,プログラムの有効性が確認された.

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要旨

 目的:本研究は,家族性大腸腺腫症罹患者が子どもの遺伝的リスクを認知し,遺伝情報開示に至るまでのプロセスを明確化することを目的とした.

 方法:研究協力者8名を対象に,半構成的面接法を用いてデータ収集を行い,内容分析を行った.

 結果:子どもに遺伝情報開示をするまでのプロセスとしては,【闘病生活にまつわる過去の体験】【遺伝的リスクを子どもに伝える親としての準備性】【遺伝情報開示に至るきっかけ】の3つのカテゴリーが抽出された.遺伝情報の伝え方としては,子どもに遺伝的リスクを伝える場合と,遺伝子検査の結果をもとに遺伝情報を伝える場合があった.発症前診断として子どもの遺伝子検査を受けることに関しては,子どもが意思確認のできる年齢にあるかどうかに応じて,施行の有無を決定していた.

 結論:遺伝医療に携わる看護職は,家系員のがんを予防するという観点からの専門的価値を押しつけたり,遺伝子診断に関する情報提供をすることを重視するのではなく,子どもに遺伝情報開示をするまでのプロセスの中で,まずは現在患者が直面している問題を解決していく必要がある.

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要旨

 透析患者の信念を健康統制所在(JHLC)および不合理な信念(JIBT)で測定し,特性およびセルフケアとの関連を明らかにした.228名の透析患者を対象に質問紙調査を実施し,「生活」と「食事」を下位尺度とするセルフケア尺度を開発の上,対象者の特性・信念との関連を統計的に分析した.その結果,セルフケア度の得点は,服薬に関する項目が最も高く,適度な運動の実施に関する項目が最も低かった.セルフケア度の「生活」と外的HLCに相当するJHLCの下位尺度「家族」・「運」・「専門職」との関連では,外的HLCが高いほど「生活」の得点が高かった.セルフケア度の「食事」とJHLC・JIBTには関連がなかった.以上,事例で示されることが多い透析患者の信念とセルフケアとの関連を量的に検討したことにより,患者がうまくセルフケアの「生活」を行えていない場合には,「家族」への働きかけ,「専門職」からの働きかけなどが有効である可能性が考えられた.

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要旨

 本研究の目的は,介護者が高齢者との間にとる位置や視線の向きが虐待とどのように関係しているかを分析し,作成した「対人距離評価表」の有用性について検討することである.対象者は,主介護者53名である.分析は虐待あり群27名,虐待なし群26名の2群に分類し行った.対象者には,介護者の高齢者に対する心理的距離を投影法的に捉える「対人距離評価表」を用いて実施した.

 その結果,虐待あり群の介護者シールの位置は,高齢者が食事介助を必要としている,徘徊している場面で半数以上が,枠外(室外)や高齢者の真後ろであった.視線の向きは,高齢者が徘徊している場面(77.7%),介護者に反抗的な場面(70.3%)が,高齢者に無関係な方向に視線を向けていた.「対人距離評価表」の介護者シールの位置や視線の向きは,高齢者と介護者の人間関係など介護状況を反映することが示唆された.

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要旨

 脳卒中後遺症でしびれを患った人々がどのような体験をしているのか,またその体験にはどのような意味があるのかを,日常生活での体験を記述することで明らかにすることを目的とし,半構成的面接を行い質的記述的に分析した.

 分析の結果,以下のことが明らかになった.参加者はしびれのため生活動作が不確かなものとなり,加えてからだによって無意識に行われていた生活空間の把握にも困難さがみられた.そしてこのような生活を積み重ねることは,自己を支える基盤を揺るがせる可能性を孕んでいることが示唆された.また,しびれ特有の認識様式として,しびれがあることや動作が以前のようにはできないことをその都度認識させられるという特徴がみられた.さらに,注目すべきことは,「慣れる」というプロセスが当事者の視点から明らかになったことである.それは,動作に応じた工夫を日々繰り返すことで再びからだが覚えていくことであり,からだが自然に覚えていく,つまり身体化されるがゆえに慣れたことを自覚しにくいという特徴がみられた.この身体化により,しびれ自体の症状改善が難しくとも,できない動作が減ることで生活の中で感じていた苦痛が軽減されることが示唆された.

基本情報

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日本看護科学会誌
28巻4号 (2008年12月)
電子版ISSN:2185-8888 印刷版ISSN:0287-5330 日本看護科学学会

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