形成外科 68巻7号 (2025年7月発行)

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特集　下眼瞼の睫毛内反と眼瞼内反

企画にあたって権太　浩一 68巻7号 , 2025年7月 , pp.689-689

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下眼瞼の睫毛内反と退行性眼瞼内反の病態権太　浩一 , 舘　一史 68巻7号 , 2025年7月 , pp.691-702

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はじめに

　下眼瞼の睫毛内反（inverted eyelash）と眼瞼内反（entropion）は，しばしばその病態が混同されている。

　眼瞼内反とは，多くは加齢に伴って起こる病態で，典型的には下眼瞼の瞼縁が眼球側に倒れ込み，下瞼板をはじめ下眼瞼の空間的位置が上下翻転した状態である。そのため，典型例では睫毛列のほぼすべての毛が眼球・角膜に接触することになる（図1a）。ただし，下眼瞼の眼瞼内反の典型例に至る前段階あるいは病態のバリエーションとして，下眼瞼縁が尾側に下がる下眼瞼の退縮（図1b）や，下眼瞼退縮とともに睫毛列を含む下眼瞼縁のみの部分的な内反（図1c）という病態も起こり得る。これらも広義での下眼瞼眼瞼内反の病態の範疇に含めてよいだろう。

　一方，睫毛内反では，眼瞼内反のような瞼板をはじめとした下眼瞼構造の上下翻転は起こらない。睫毛内反の病態は，下眼瞼組織の前葉（皮膚および眼輪筋）と後葉（瞼板および瞼結膜）の垂直方向の位置関係・バランスの異常である（図2b）。睫毛の毛根は瞼縁眼輪筋層内（つまり前葉側）に突き刺さった形で存在するが，何らかのメカニズムで前葉が後葉に対して頭側に位置してしまうと，前葉が下眼瞼瞼縁に乗り上げて，前葉側に毛根の基部をもつ睫毛は眼球側に倒れることになる。

　本稿では，睫毛内反と眼瞼内反のそれぞれにおいて，その発生メカニズムと手術術式の関連について総説する。

下眼瞼睫毛内反症に対する下眼瞼牽引筋腱膜（LER）の離断およびlid margin splitを併施したHotz変法大井　皓介 , 小久保　健一 68巻7号 , 2025年7月 , pp.703-708

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はじめに

　下眼瞼睫毛内反症は，アジア人に特有の先天性疾患であり，一般的に下眼瞼の内側1/3～1/2に発生し，両側性であることが多い 1）。よく混同される眼瞼内反症とは異なり，眼瞼自体の向きは正常であり，睫毛のみが眼球方向に内反している状態である。手術方法としては，埋没法と切開法（Hotz変法）が挙げられるが，再発率が低いとされているHotz変法が選択されることが多い。しかし，前葉と後葉のアンバランス（前葉の乗り上げ，後葉の引き込み）が重度の場合は，Hotz変法のみでは再発することがある。著者らはHotz変法の1つであるrotating suture technique 2）に加え，下眼瞼牽引筋腱膜（lower eyelid retractor：以下，LER）の離断，および瞼縁切開（以下，lid margin split）を施行することで，再発率を低下させる工夫をしている。

　本稿では，LERの離断およびlid margin splitを併施したrotating suture techniqueについて紹介する。

Skin redraping法による内眼角贅皮矯正を併施したHotz法安積　昌吾 , 駒越　翔 , 栗原　真悠 68巻7号 , 2025年7月 , pp.709-715

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はじめに

　下眼瞼の睫毛内反症は，睫毛が眼球に接触することで涙目や異物感，角膜障害を引き起こす疾患である。東洋人集団において，新生児の睫毛内反症の発症率は46 ％とされており，成長に伴って低下し，12歳ごろには約2 ％まで低下する。自然軽快が望める疾患ではあるが，4～5歳以降では成長による改善が期待しにくく，眼痛と視力低下を認める症例では適切な治療が必要とされている 1）。Hotz法 2）は，簡便かつ安全性が高い治療法として広く用いられているが，内眼角贅皮を伴う症例では矯正が不十分となり，再発が課題となっている 3）。内眼角贅皮を形成する眼輪筋の過剰な上下方向の牽引が皮膚の緊張を生み，涙湖方向への皮膚の牽引が睫毛の内反を助長する。このような症例では，審美的な内眼角形成術を行うのではなく，筋緊張の解除を主目的とする治療が適している。

　本術式では，Ohらが報告したskin redraping法 4）を応用し，内眼角部の筋緊張を解除しつつ自然な形態を保ちながら，睫毛内反症の改善を図る。本稿ではその術式の意義と具体的手技，ならびに2015年4月～2024年9月まで同一術者が施行し，180日以上経過観察した症例の臨床成績について詳述する。

退行性下眼瞼内反症の病態に基づいた外科治療法村上　正洋 68巻7号 , 2025年7月 , pp.716-726

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はじめに

　形成外科医が診療する代表的な眼瞼疾患は眼瞼下垂である。その中で最も頻度の高い退行性（加齢性）眼瞼下垂は眼瞼挙筋腱膜の弛緩や変性が原因とされる。一方で，退行性下眼瞼内反症の発症機序も各組織の弛緩や変性によると考えられることから，下眼瞼は上眼瞼ほどダイナミックに動かないものの，下眼瞼内反症を眼瞼下垂のミラーイメージと捉えることが病態の理解に役立つ。

　本稿では，ともに退行性変化で生じる下眼瞼内反症と眼瞼下垂を対比しながら，病態とそれに基づいた外科治療法のバリエーションを著者の経験を交えて解説する。

LTS法とHotz法を併施した退行性下眼瞼内反症手術白井　エリオ , 三島　吉登 , 三村　信英 , 若林　奈央 68巻7号 , 2025年7月 , pp.727-732

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はじめに

　睫毛内反症と眼瞼内反症は，どちらも睫毛が眼球に当たり角膜障害を引き起こす点で症状が類似しているが，両者は別の疾患であり病態が異なる。睫毛内反症は睫毛が皮膚・眼輪筋瞼板部からなる眼瞼前葉に押されて向きが変わる疾患であり，眼瞼内反症は瞼板自体が上下方向に回転して内反する疾患である。睫毛内反症は先天性の頻度が高く，眼瞼内反症はアジア人の高齢者に発生する退行性の頻度が高い。

　本稿では，退行性下眼瞼内反症について解説する。退行性下眼瞼内反症は，加齢による眼瞼の水平方向の弛緩や垂直方向の弛緩，眼輪筋隔膜部の上方移動の3つが主な発生機序と考えられる。当科では，水平方向の弛緩に対しては下眼瞼の瞼板を外側に牽引し眼窩外側骨膜に固定するlateral tarsal strip（以下，LTS）法で対処し，眼輪筋隔膜部の上方移動に対しては瞼縁付近の眼輪筋を瞼板に縫合するHotz法で対応するという方針で，この2つの術式を併施しており，その臨床結果を検討する。

下眼瞼退行性内反に対するDouble Linked Deep Quickert法長西　裕樹 68巻7号 , 2025年7月 , pp.733-740

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はじめに

　下眼瞼退行性内反の病理は，2007年にJones-Kakizaki法（以下，J-K法） 1）が報告された後に解明が進み，①lower eyelid retractor（以下，LER）と下瞼板の連続性の喪失と②前葉または後葉の水平方向の弛緩が主な病因と考えられるようになった。術式選択では①に対するJ-K法を基本として，②の程度に応じて短縮術を追加して再発率を低下させる，という形で理論的にも臨床的にも完結している。

　一方で，患者の大半が後期高齢者であり，亀背や頻尿などで仰臥位の保持が難しい，既往症に対する抗血小板薬や抗凝固薬の中断ができない，余命を考えたうえでのリスクとベネフィットの評価は難しいなどの問題が生じやすい。大切開を伴うJ-K法，さらに水平方向の短縮手技の追加となると，患者も医者も諦めたくなる状況も生じ得る。また，社会の高齢化は進む一方なので，より省時間かつ低侵襲，つまり小切開による術式が求められている。2011年に林ら 2）は，小切開から1つの結紮で①と②に対処するwide everting suture（以下，WES）を報告しているが，続報 3）4）でも一貫して②の程度に応じた症例選別の必要性を述べている。

連載　随想

YouTubeから学ぶ —卒業式での祝辞スピーチ— 林　礼人 68巻7号 , 2025年7月 , pp.687-687

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連載　形成外科Topics！

第61回全国国立大学病院手術部会議in松本2024 杠俊介 68巻7号 , 2025年7月 , pp.742-747

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連載　社会形成外科学の萌芽

第4回　形成外科と法律・制度細川　亙 , 佐藤　誠 68巻7号 , 2025年7月 , pp.748-752

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連載　みんなで考えよう！足病カンファレンス Season2

case 16　欠損の大きい創傷に対する新たな選択肢—EPIFIX Ⓡと局所陰圧閉鎖療法の併用— 佐藤　智也 68巻7号 , 2025年7月 , pp.754-757

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宿命？　運命？上原　幸 68巻7号 , 2025年7月 , pp.758-759

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No.127　千葉大学医学部形成外科学教室 68巻7号 , 2025年7月 , pp.760-762

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連載　ザッツ形成外科！

Vol.19 Z形成術中村　優 68巻7号 , 2025年7月 , pp.763-763

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投稿論文　原著

眼瞼下垂症例におけるDry Eye related Quality of life Score （DEQS）の検討橋本　昌也 , 若見　暁樹 , 建林　里佳 , 菱川　美紀 , 上野　真理恵 68巻7号 , 2025年7月 , pp.764-771

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はじめに

　ドライアイの症状は眼の乾燥感や異物感といった典型的な症状から，目の疲れやかすみなどドライアイとは関係がないように思われがちな症状まで実に多彩である。年々，ドライアイ診療において自覚症状は重要視されるようになり，2016年改訂の「日本ドライアイの定義と診断基準の改訂（2016年版）」から確定診断の条件として自覚症状が含まれるようになった 1）。これらの自覚症状は読書，車の運転，パソコンの使用，仕事，テレビ鑑賞などからうつ症状まで多彩な症状が報告されている 2）3）。そのため，ドライアイの自覚症状やQOLを評価できる質問表として，ドライアイ研究会からDry Eye related Quality of life Score（以下，DEQS）が開発された。DEQSは患者自己記入方式で，それぞれの質問に対して頻度や程度を回答していくが，診療の待ち時間などを利用して5分程度で全問回答することができる。DEQSは眼の症状に関する質問6項目と，日常生活への支障に関する質問9項目で構成されており，QOLスコアは0～100点のDEQSとして算出され，高いスコアほどドライアイの症状が強いとされる（図1） 4）。簡便に使用でき，治療前後の自覚症状やQOLの変化を評価できるため，主に眼科外来などで使用されている。

　眼瞼下垂手術は瞼裂幅増大により涙液の蒸発増加や，瞬目時の摩擦を増強するリスクがあり，合併症として術後ドライアイが進行する可能性があるといわれている 5）6）。そこで今回，当院における眼瞼下垂症例の術前後におけるDEQSの推移について検討を行ったため報告する。

投稿論文　症例

MP関節橈屈変形を来たした浮遊型母指多指症の1例今井　俊介 , 鳥谷部　荘八 , 三浦　孝行 , 津久井　英威 68巻7号 , 2025年7月 , pp.772-778

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はじめに

　母指多指症は手の先天異常の中で最も頻度の高い疾患であり 1）2），その治療法は多岐にわたって報告されてきた。その中で日本手外科学会・手の先天異常分類マニュアル 3）（以下，日手会分類）において7型に分類される浮遊型母指多指症の治療法については，他型と比較して単純切除のみで合併症は少なく，術後経過も良好とされてきた 4）5）。しかし浮遊母指の分岐部位によっては，長期成績において問題が生じることが徐々に明らかになってきた。

　今回われわれは，浮遊型母指多指症に対して切除後5年で徐々に母指中手指節関節（以下，MP関節）の橈屈変形を来たした症例を経験したため，文献的考察を加えて報告する。

脂肪腫の再発と考えられた左肘部異型脂肪腫様腫瘍の1例大森　凜 , 髙田　温行 , 作道　善行 , 最所　裕司 68巻7号 , 2025年7月 , pp.779-784

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はじめに

　異型脂肪腫様腫瘍（atypical lipomatous tumor）とは脂肪性腫瘍の中の1つであり，現在のWHO分類では良・悪性中間群に位置する腫瘍であると定められている 1）2）（ここで細胞学的に同位である高分化型脂肪肉腫は後腹膜臓器や筋層から出現する腫瘍を表し，異型脂肪腫様腫瘍は皮下組織に出現する腫瘍を表す）（図1）。

　特徴として，転移はまれであるが10～15 ％ほどが局所再発し，時間の経過とともに4 ％ほどが高悪性度に脱分化し脱分化型脂肪肉腫へ変異する可能性があるとされている 3）。

　今回われわれは，左肘部脂肪腫が再発する過程で，良悪性中間群である異型脂肪腫様腫瘍へ悪性転化した可能性のある，まれな1例を経験したので報告する。

投稿論文　工夫

安全かつ簡便にできる薄層化皮弁の挙上方法伊田　幸平 , 今泉　督 68巻7号 , 2025年7月 , pp.785-789

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はじめに

　整容的に優れた再建を行う際には欠損部に近似した組織〔皮膚の色調，真皮の厚さ（質感）皮下脂肪の柔らかさ〕と輪郭の再現（皮弁の厚み）が重要である。Perforator branch flap technique 1）はカラードップラーエコーで脂肪層内の穿通枝の主要分枝を同定し，これを脂肪層内で剥離温存することで安全にさまざまな穿通枝皮弁での薄層化を可能にした。その結果，穿通枝皮弁選択時の皮下脂肪の厚さという制約がなくなり，like with likeな再建が可能になった。しかし本法の脂肪層内での穿通枝の分枝の剥離同定作業は穿通枝皮弁初学者にはハードルが高い。この工程を省略した簡便なperforator branch flap techniqueを考案したので報告する。

その他

目次 68巻7号 , 2025年7月

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欧文目次 68巻7号 , 2025年7月

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投稿規定 68巻7号 , 2025年7月 , pp.790-793

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次号予告／編集後記 68巻7号 , 2025年7月 , pp.796-796

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バックナンバー 68巻7号 , 2025年7月

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定期購読ほか　申込みシート 68巻7号 , 2025年7月

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形成外科
68巻7号
(2025年7月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0021-5228 克誠堂出版

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