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Ⅰ 司法精神医学のパラダイムシフト――治療・社会復帰支援の重要性
21世紀を迎えた頃より,わが国の刑事司法の分野では,大きな法制度の改正・創設が行われた。なかでも,精神医学・精神科医療の世界に与えたインパクトがもっとも大きかったのは,医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)の施行である。医療観察法は,重大な触法行為を行い,刑事司法機関によって心神喪失・心神耗弱者と認定され刑を免れた精神障害者の処遇手続きを定めた法律である。対象となった精神障害者に対して,国の責任において適切な医療を継続的に提供することによって,その病状を改善し,さらに再発・再燃予防を通して再び同様の重大な他害行為を行うリスクを減少させ,最終的に当該精神障害者の社会復帰の促進を図る。医療観察法の施行によって,わが国に初めて,単なる診断だけではなく,治療や社会復帰などをも視野に入れた司法精神医学専門サービスが確立され,司法精神医学の専門領域に,治療や社会復帰支援が加わることになった。医療観察法による医療は,司法精神医療と呼ばれている。
刑事収容施設法によって特別改善指導が導入され,麻薬,覚せい剤その他の薬物に対する依存のある受刑者に対する改善指導プログラム(薬物依存離脱指導)や性犯罪者に対する改善指導プログラム(性犯罪再犯防止指導)が行われるようになった。特別改善指導の対象は,精神障害者に限られるわけではないが,そのプログラムの内容は,精神医学・心理学における知見をもとに策定されており,犯罪者に対する精神保健的なアプローチの一つといえる。さらに,2022年の刑法等の改正により,従来の懲役・禁錮を統合して新たに拘禁刑が創設された。「拘禁刑に処せられた者には,改善更生を図るため,必要な作業を行わせ,又は必要な指導を行うことができる」(改正刑法12条)とされており,刑の目的が改善更生であることが明確化され,刑務作業以外に,刑の一環として受刑者の特性に応じた指導(更生プログラム)を行うことが可能となり,2025年6月1日より施行されている。
こうした法制度の改正・創設によって,わが国の司法精神医学は,大きなパラダイムシフトを要請されることになった。精神鑑定を中心としてきた伝統的な司法精神医学は,治療・社会復帰支援や犯罪者に対する精神保健的アプローチなどをも含む「司法精神保健学(forensic mental health)」へと変革することを求められるようになったのである(五十嵐,2014)。

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