- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
ドラッグコートとは,本来,刑務所に収監されるべき薬物犯罪の被告人に対して,本人が希望すれば,収監を猶予する代わりに,地域の外来依存症治療プログラム(集団再発防止スキルトレーニング)に参加させる制度である。
端的にいえば,刑罰から治療への制度といってよいだろう。刑務所収監を回避した参加者たちは,通常,仕事を終えた夕方以降の時間帯,週3回は自宅からプログラムに参加し,抜き打ちで尿を用いた簡易薬物検査を受ける。併せて,定期的に裁判所に出廷しては治療の進捗を評価され,薬物検査で薬物反応の陽性が続いていれば,週末2泊3日程度の留置所への収監を命じられ,反対に,半年間継続して薬物反応の陰性を達成すれば,刑務所収監は取り消され,前科として残ることもない。
今から20年前の2006年,筆者は,カリフォルニア州内の裁判所でドラッグコートの法廷を見学した。もちろん,それなりに感動的な場面だった。大きな法廷にはドラッグコート係属者が多数参集しており,裁判官に名前を呼ばれると順番に前に歩み出る。裁判官はとてもフレンドリーで,尿検査で薬物反応の陰性を出し続けている者には称賛の言葉を贈り,一方,陽性が続いている者には励ましの檄を飛ばして週末の留置所収監を申し渡す。なかには,その日に1年から1年半に及ぶプログラムを無事に修了した者もおり,法廷に集うドラッグコート係属者全員から拍手を送られ,本人もまた感涙にむせび泣いていた。そこでは裁判官は判決を申し渡す人というよりも,主治医かソーシャルワーカーのようにみえた。そのとき私は,「日本にもこういう制度があったらなぁ」と感じたのを覚えている。
しかし,あれから20年の時を経て,薬物問題をめぐる情勢や言説は大きく変化した。本稿では,今日的な視点から米国ドラッグコートの歴史と評価を概観した上で,その功罪を検討するとともに,「そもそも薬物問題を刑事司法政策の対象とすることは正しいのか」といったところに議論を掘り下げる。そのうえで,わが国におけるドラッグコートの実現可能性と課題について私見を述べてみたい。

Copyright© 2026 Kongo Shuppan All rights reserved.

