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私の通っているグループホームでは、(多くのグループホームがそうであるように)年に何度かお出かけの行事があるのだが、そのなかに、「フードコートお食事会」というのがある。ホームから車でしばらく行ったところに、郊外型の巨大なショッピング・モールがある。フラットで広々としたフードコートは、車いすでの移動が楽で、しかも幸いなことに平日の夜はそれほど客がいない。そこに、通常の食事ができる入居者の方々数人にスタッフが十数人、さらに私たち観察隊まで混じって、20人以上の大所帯でモールに繰り出すのである。
これがなかなかおもしろい体験なのだ。エレベーターホールで待っていると、そばを通りがかった女子高生から「かわいい!」と声が飛ぶ。今日はよそゆきということで、車いすに座っているみなさんにはおそろいの膝かけがかかっている。あまり場所をとらないようにと、たまたま整然と並んでいたのだが、その、ずらりと並んだ車いすのおばあちゃんに膝かけという出で立ちは、離れてみるとなるほど、何かのブランドのCMのように、やけにファッショナブルだ。こういう外見のおもしろさは、そばにいると意外と気づきにくい。外に出て人の目が入るというのは、なかなかいいものだ。遠く2階のほうで携帯で写真を撮る人までいる。「あ、あそこで撮ってはる」と職員さんが言うと、入居者の何人かが上を見上げる。笑いかける他の客に、柔らかい表情を返している。もちろん、さまざまなボランティアの人がホームを訪れているのだし、ホーム外の人と交流する機会はたくさんあるわけだが、こんなふうに広々とした空間で、はるか遠い階上の人と表情を交わす場面というのは、なかなかお目にかかれない。外出は、「視線」のあり方をダイナミックにする。
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