特集 悲嘆の精神療法
悲嘆の概念と理論――臨床にどのように役立てるのか
瀬藤 乃理子
1
1兵庫県こころのケアセンター研究部
pp.305-312
発行日 2026年6月5日
Published Date 2026/6/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt52030305
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
死別の悲嘆の診断・治療は,今,大きな変革期を迎えている。ICD-11やDSM-5-TRに「遷延性悲嘆症(Prolonged Grief Disorder)」が診断名の一つとして入ったことで,悲嘆に関心をもつ専門家は着実に増えている。とはいうものの,実はNormal Grief(正常悲嘆/通常の悲嘆)から逸脱する悲嘆,つまり治療が必要な「通常ではない悲嘆/複雑性悲嘆(Complicated Grief)」を診断基準化しようとする議論は,かれこれ20年以上前から続いていた。
なぜこれほど診断基準化に時間を要したのか。それは悲嘆の概念や取り扱いに関して,「Normal Griefとは何か」という最も基本的な事柄から,長きにわたる歴史的な論争と混乱があったことにほかならない。それだけ悲嘆は個別性が強く,症状も経過も多様かつ多彩で,その土地の文化的影響も色濃く受けるため,用語や概念を定義することさえ難しかったのである。
それでも現在,臨床現場で用いられている悲嘆の介入や治療の考え方・技法の多くは,これまで議論されてきた悲嘆の概念や理論に準拠している。本稿では,より深く遺族の悲嘆を理解するために,知っておきたい悲嘆の歴史的背景と,その概念や理論について述べる。

Copyright© 2026 Kongo Shuppan All rights reserved.

