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はじめに
長寿と少子化を特徴とする我が国は,総人口の約3割が65歳以上と世界でも有数の超高齢社会の状況を呈している。高齢化の進む社会では,労働力不足や年金・医療費の増大,介護人材の不足,といったさまざまな問題が発生するが,大きな問題の一つとして,高齢者,特に独居者の孤立がある。社会構造の変化から同じ町内,同じマンション,アパートに住んでいても隣人との関わりは減る一方であり,高齢の独居老人ともなると,本人が社会参加に消極的であればほとんど人との関わりを持たずに生活を続けることも少なくない。家族や親戚とのつきあいも少なくなれば,人知れず衰弱し,最悪の場合孤独死を迎えてしまう可能性もある。そのような孤独な高齢者が呈する状態として,ディオゲネス症候群と呼ばれるものがある(溝部・中尾,2019)。これは,高齢者に見られる行動・生活上の異常を示したもので,生活環境の極端な荒廃,掃除や入浴をしないことによる不衛生,セルフネグレクト,ものの過剰な収集・ためこみなどを特徴とし,対人関係は断絶し,社会的孤立に至った状態をいう(もっとも語源となった古代ギリシャの哲学者ディオゲネスは極端に質素で孤立的な生活は送っていたものの,不衛生やセルフネグレクトなどは見られなかったらしいが)。
関連して,近年マスメディアによく取り上げられる社会問題に,「ゴミ屋敷」の話題がある。大量の一見ゴミとも思える雑多なものが家からあふれ庭を埋めつくし,果ては道路にまではみ出し,時に異臭を放ち,近隣住民とトラブルになる話はよく耳にする。ゴミ屋敷の住民は,典型的には高齢の男性か女性の一人暮らしであろう。古い一軒家に単身で住み,世間づきあいはなく,長年ひきこもりがちの生活を送っている。ディオゲネス症候群とも通じるイメージである。もっとも,どのような経緯を経て高齢者にゴミ屋敷の問題が生じるのかについては,まだよくわかっていないのが現状である。本稿では,「ためこみ」について,DSM-5(American Psychiatric Association, 2013)から新たに疾患として定義づけられた,「ためこみ症」の概念も呈示しつつ,高齢者が抱える問題の一つとして話題にしたい。

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