特集 リカバリーを目指す認知療法(CT-R)を実臨床で生かす
アスピレーションとレジリエンスに目を向けた認知行動療法の画像研究
片山 奈理子
1
1慶應義塾大学 保健管理センター,医学部 精神・神経科学教室
pp.493-494
発行日 2025年8月5日
Published Date 2025/8/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt51040493
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精神科臨床において,「何を目指すか」は時代とともに変化してきた。かつては症状の軽減や再発予防が主たる目標だったが,近年では,それに加えて「よりよく生きる」こと,すなわちウェルビーイングの実現に焦点が当たっている。こうした視点は,症状の緩和にとどまらず,患者が人生に意味を見出しながら生きることを支援するものであり,現代の精神療法における新たな目的を提示している。
CBT(Cognitive Behavioral Therapy)は,精神疾患に対する有効な非薬物療法の一つとして広く用いられており,治療ガイドラインにも位置づけられている。特に近年では,神経画像研究との融合によって,CBTの神経生物学的基盤が明らかになりつつあり,未来性思考における前頭極(BA10)の役割や報酬系ネットワーク,感情制御系との機能的連関などが注目されている。CBTは,こうしたネットワーク変容に働きかけることで脳機能の柔軟性を高め,患者の行動や感情調整を可能にするとされる。Aaron Beck博士らによって提唱された「リカバリーを目指す認知療法(CT-R)」では,患者が心から望む未来像=アスピレーションを特定し,それを中心にポジティブな行動や思考を育むことが目指されている。アスピレーションとは,自己実現や価値観の実現に根ざした願望であり,日常生活の些細な喜びから長期的な夢までを含む。CT-Rは重症精神疾患にも適用され,ポジティブな行動モードへの転換を後押しする介入とされている。
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