連載 臨床心理学・最新研究レポート シーズン3
どうして穴だらけがこわいのか?――トライポフォビア研究についての概説と動向
山田 祐樹
1
1九州大学基幹教育院
pp.234-237
発行日 2026年3月10日
Published Date 2026/3/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp26020234
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I はじめに
トライポフォビア(trypophobia)は,小さな穴や斑点の集合に対して生理的・感情的な強い不快感を呈する現象である。蓮の実,蜂の巣,気泡の集まりといったパターンに対して嫌悪や恐怖,不安,吐き気,痒みといった感覚を訴える者も少なくない(私のラボの学生にも,トライポフォビア画像を見ると必ず右頬が痙攣する者が存在した)。この現象はインターネット上で話題となった比較的新しい語ではあるが(Cole & Wilkins, 2013),少なからぬ人々が日常生活において回避行動を取っている可能性がある。
ただしトライポフォビアは,現時点ではDSM-5やICD-11などの公式な診断体系には含まれていない。これが本当にその名の通りの恐怖症(phobia)の一種なのか,それとも嫌悪(disgust)のような感情の一種なのか,視覚生理的な不快なのかについては,未だに議論が分かれている。また,特定の精神疾患(不安障害,強迫性障害,発達障害など)との関連も示唆される一方で,それらと区別される独自の反応様式である可能性も否定できない。
本稿では,過去約10年の主要な実証研究と症例報告を参照しながら,トライポフォビアの心理学的理解を試みる。視覚特性,感情種別,説明仮説,臨床的知見といった複数の観点から整理することで,トライポフォビアが持つ学術的・臨床的な意味を吟味することが本稿の目的である。

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