特集 虐待新論――「なかったことにしない」ための援助論
刑事施設の虐待とリフレクティング――抑圧の移譲からケアのメッシュワークへ
矢原 隆行
1
1熊本大学大学院人文社会科学研究部
pp.72-77
発行日 2026年1月10日
Published Date 2026/1/10
DOI https://doi.org/10.69291/cp26010072
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I はじめに
2025年,全国の刑務所に勤務する刑務官に6桁の識別番号が割り振られ,制服に表示されることとなった。受刑者から刑務官の判別を可能にして不適切処遇を抑止することが狙いとされる。先行して2024年には,従来,呼び捨てにされることも多かった刑事施設(刑務所,拘置所等)の入所者の呼び方を「さん」付けに改める指示が法務省から通達されている。こうした変化の契機となったのは,2022年に発覚した名古屋刑務所の刑務官による受刑者への暴行・不適正処遇事案。すなわち,刑務所という閉鎖空間で生じた複数の職員による入所者への「虐待」「いじめ」と言うべき数多の行為である。
筆者はこの間,2020年2月から社会復帰促進センター,同年11月から福岡少年院,2024年4月からは熊本刑務所および筑紫少女苑とそれぞれ5カ年の共同研究協定を結び,刑務所や少年院固有の組織風土に触れ,会話を重ね,そこに生きる人々と活動しつつ,その内からの変容可能性を探求するリフレクティング・プロセスに取り組んできた(矢原,2024)。その歩みが上記のような本邦における矯正改革の急流と交叉することになったのは奇遇であり,同時に貴重な機会と感じられる。以下,本稿では,特集テーマである「虐待」という視点から,本邦の矯正をめぐる変化とそこでのリフレクティングの可能性について素描したい。

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