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I 序文――私の原点
私は1998年に小児科医になってもうすぐ28年になる。研修医時代,当時の教授から「小児科医は子どもの病気だけを見ていてはだめだ。家庭や学校,子どもの気持ちなど,背景を含めて診療しなさい」と教えられた。
医師1年目,虐待を受けて入院していた小学生の女の子を担当した。私は毎日ベッドサイドに通い,ただおしゃべりをしたり,一緒に勉強を見てあげたりした。主治医として大したことはできなかったと思っていたが,退院の時にその子からお礼の手紙をもらった。そこには「毎日来てくれてうれしかった」「勉強を見てくれてありがとう」「これからも頑張ります」と書かれていた。短い期間で些細な関わりだったはずなのに,子どもにとっては大きな時間になっていたのだと気づいた。この経験が,私が子ども虐待の問題に関わり始めた原点である。
医療機関は子ども虐待の診断・治療にとどまらず,再発予防や子どもの育ちの見守り,母子・家庭支援を含めて長期的に関わることができる貴重な社会資源である。また,困り感やしんどさを抱えて受診してくる親子は,病院という特性上,自分の弱さをさらけ出し,助けを求めて来院する。そういった親子に早期から,そして長く丁寧に関わり続けることによって,虐待の予防につながる可能性があると考えている。
私が2003年に,院内虐待チーム「育児支援対策室」を立ち上げようと決めた時,いろいろな文献や本でお名前を見つけた,当時の子どもの虐待防止センター理事長の故・坂井聖二先生に突撃で直接電話を掛けた。今思えば無鉄砲な行動だったが,当時坂井先生は二度もわざわざ香川県まで来てくださり,若かった私にいろいろなアドバイスをくれた。その坂井先生の言葉で,日本子ども虐待医学会作成の医療者向け虐待対応プログラム「BEAMS」の講義の中で必ず紹介している言葉がある。「我々が,虐待の存在を全く考慮に入れない時,また虐待の存在を疑いながらさまざまな理由をつけて,その問題に対処しないとき……それは我々の行うネグレクトである。我々は“常に加害者になりうる”ということを意識しなければならない」という言葉である。
私たちは本当に,加害者になっていないだろうか。子どもたちの本当の声を聴き取れているだろうか。「家に帰りたい」と言った子どもが,なぜそう発したのか,その本意,発しないといけなかった背景は何か,きちんと解釈できているだろうか。
今回は,私が経験したケースをもとに,「子どもの声」について考えてみたい。

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