- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
I ジェンダーに基づく暴力とは何か
「ジェンダーに基づく暴力」という言葉を聞いて,どれくらいの人が,それが何を指すのかを瞬時に想起できるだろうか。言葉そのものは聞きなれないものかもしれないが,その言葉が指す現象については,馴染み深い,いや,あまりにも“普通に”存在していて意識するのさえ難しいかもしれない。ドメスティック・バイオレンス(DV)や性暴力,ストーキングなどがジェンダーに基づく暴力(この言葉は,Gender Based ViolenceまたはSexual and Gender Based Violenceの訳語で,GBV/SGBVと略されることが多い。本稿においてはGBVと表記する)のなかでもわかりやすい現象だといえようが,それだけではない。UNICEF(国際連合児童基金)は,GBVを以下のように定義している。少し長いが,重要な概念であるため引用する。
ジェンダーに基づく暴力(GBV)とは,男女間の社会的に定められた性差に基づいて,個人に対して行われるあらゆる有害な行為を指す言葉である。これには,身体的,性的,精神的な危害や苦痛,またはそれらの行為の脅かし,その他の自由の剝奪が含まれる。GBVは,男女間の不平等な力関係と,それに起因する女性に対する差別から生じる。GBVは男女両方に影響を及ぼす可能性があるが,女性や女児がより大きな影響を受けている。危機的状況下では,女性や女児に対するGBVのリスクがさらに高まる。障害を持つ女性や女児,LGBTI+コミュニティに属する人々など,より高いリスクにさらされる人もいる。(UNICEF, n.d./引用者訳)
具体的にどのような事象がGBVと定義されるのかについては,表1を参照いただきたい。GBVは,個人のウェルビーイングを損なったり自己実現を妨げたりするだけではなく,死や障害につながることもある。
これらの暴力は,「ありえない」と感じる人がいる一方で,地域や年代,文化的・宗教的・政治的背景によっては,「仕方がない」,あるいは「当然だ」と捉える人もいる。その人の性別によっても捉え方が異なるだろう。そのような暴力の正当化をもたらすものが「男女間の社会的に定められた性差」である。例えば,かつて女性は男性の「所有物」であると考えられており(世界的に見れば現在もその考え方が続いているところもある),女性への性暴力は,それを所有する夫や父親の「財産」を傷つけることだと考えられていた(宮地,2008)。また日本においても,妻への暴力は,「夫の言うことを聞かせる」ために致し方ないと,それほど問題視されてこなかった。

Copyright© 2026 Kongo Shuppan All rights reserved.

