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Ellenberger著『無意識の発見』が示しているように,心理療法の祖先は古代から存在するさまざまな癒しの技法に遡ることができるかもしれないが,そもそも近代の心理療法が成立してきたのが19世紀後半のヨーロッパにおいてであり,さらに現在も存続しているさまざまな学派が生まれてきたのは,精神分析運動以降の20世紀のことである。ユング派,アドラー派が成立し,さらに精神分析へのアンチテーゼとしてRogersのクライエント中心療法,学習理論に基づく行動療法が生まれてきた。特にフロイト派,ユング派などの分析系の学派においては,理論についての学習や試験のみならず,個人分析やスーパーヴィジョンの時間について,分析家の資格のために必要とされる厳格な基準が定められてきた。学派のテーマは,それぞれの学派が作ってきた資格の問題と切り離せないと思われる。
また一つの客観的真理を追究する科学主義の見方からすると,そもそも心理療法についてさまざまな立場の学派が並存することが奇妙な事態である。物理学においては一つの物理学が存在するだけで,確かに古典物理学と量子力学の区別はあるものの,それは理論の進化として説明できる。たとえばアインシュタイン派,ハイゼンベルク派などの創始者の名前を冠する物理学が存在するわけではない。学派が存在するということには,心理療法に従事するセラピストの関わり方と主観性を重視する心理療法の独自性が示されている。自然科学のように主観性を排除するのではなくて,むしろ主観性を積極的に入れ込むと同時に,その主観性を反省的に捉えて意識しようとするところが学派に基づく心理療法の特徴なのである。
しかし世界各地で,心理療法家の国家資格が作られていくに従って,各学派における訓練と資格の意味は大きく変化していった。そこで,今学派があることについて検討してみたい。

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