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I はじめに
30年前の1995年12月,無我夢中だった私が,発刊25年にして初の「開業」を冠した特集の責任編集を任される時が来るとは,まるで夢のようである。
この感懐には2つの意味がある。1つは,海のものとも山のものともつかない無名の開業相談機関の経営者だった私が,専門誌で開業論特集を編むまでになれたという思い,2つ目は,私設ではなく開業という言葉を堂々と掲げることができたことへの思いである。
心理職初の国家資格である公認心理師が成立するまでのさまざまな障壁のひとつが,開業という言葉だったことは意外と知られていない。私自身はロビー活動に参加した経験はないが,故村瀬嘉代子先生をはじめとする尽力された多くの方々から聞かされたことがある。医師でもないのに,心理職が開業という言葉を用いるのはいかがなものかと,精神科医療関連諸団体から疑念が呈されたのだ。日本臨床心理士会ではそれを受けて,開業を「私設」と言い換えるようになった。Freud由来のプライベート・プラクティスの直訳である。公認心理師の成立までに幾多の妥協を強いられたが,そのひとつが私設への言い換えだったのである。当時すでに20年近く会社組織である原宿カウンセリングセンター(以下,センターと略す)を経営していた私は,開業を私設と呼ぶことに口惜しさを感じたが,国家資格成立のためには妥協せざるを得なかった。開業は医師だけに許されるという一種の名称独占状態は,暗黙のうちに現在も続いている。公認心理師の活動5領域のなかに私設は含まれず,「その他」のひとつとして位置づけられているのが現実だ。このような歴史を踏まえると,私設ではなく開業論を正面からあつかう本特集がどれほど画期的な試みかがわかる。

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