特集 臨床的時間論―生きた時間の回復と治癒
臨床的時間論―生きた時間の回復と治癒
森岡 正芳
1
1立命館大学
pp.515-519
発行日 2024年9月10日
Published Date 2024/9/10
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I はじめに
心理支援の現場では,問題とその解決に関わって時間要因が深く関係する。生きることの困難を抱えるということは,「問題」の状態が時間的に継続し,軽減しないということである。朝起きられず学校や職場に行けない状態が,毎日続けば,そのきっかけがはっきりしなくとも,「問題」としてのしかかる。クライエントの生きにくさの背景には,明日,未来に向かって見通しが立たない,明日が見えないということがある。状態が遷延化していくことの,出口が見えないつらさ。
臨床の多様な場面で,クライエントと出会い,同行する時間は心理臨床独自の質をもつ。心理支援において,何が治療的になるかは時間と深く関わる。まず時間と場所の限定,定期的に面談の時間を取ること。このような枠組みの設定を通じて,時間の質が変わる。人が人と会う場面を維持することが,私たちの支援の基本である。守られた場所において,クライエントの活き活きとした体験の瞬間に触れ,それを共にできることは,この仕事を維持する原動力となる。
カウンセリングや心理療法という独自の場を設定するなかで行われる心理支援では,他者が関わることで,体験される時間の様相が多様に変化する。時間が伸縮したり,過去が未来に転じたりする。不思議なことである。この特集を通じて,時間の体験の変化について,その心理臨床的な意味をふりかえり,日ごろの実践にいくらかでも励みになれば幸いである。

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