特集 上部消化管疾患
総説 実地医家が知っておくべき基礎知識と診療指針
症状からみた消化器疾患鑑別診断の進め方
舩坂 好平
1
1藤田医科大学消化器内科
キーワード:
症状からみた消化器疾患鑑別診断の進め方
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▶消化器疾患につながる自覚症状は多岐にわたるが,その一部は循環器,内分泌代謝,泌尿器,婦人科疾患など消化器以外の随伴症状として出現する.
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▶まず危険な兆候がないかを確認し,緊急対応が必要な疾患を除外したうえで鑑別診断を進めていく.
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▶嘔吐は延髄の嘔吐中枢が刺激され引き起こされる現象であり,消化器系の異常はその原因の一部にしか過ぎない.
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▶悪心嘔吐をきたす危険な疾患としては,急性冠症候群,敗血症,DKA,食物アレルギー,アナフィラキシー,電解質異常,くも膜下出血,小脳梗塞・出血,腸閉塞などがあがる.
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▶嘔吐が発症し数日以内の場合で下痢を伴えばウイルス性胃腸炎の可能性が高い.
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▶胸やけを主症状の一つとするGERDは強い痛みや睡眠障害を伴い患者QOLを著しく低下させる場合がある.
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▶上部消化管内視鏡検査をしたことがない患者(特に50歳以上)には悪性腫瘍を除外するために一度内視鏡を勧めておく.
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▶胃もたれの原因は,胃の排出遅延,適応性弛緩反応異常,内臓知覚過敏があり,器質的な疾患がない場合で慢性的なものはFDと診断される.
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▶急性冠症候群,大動脈解離,腹部大動脈瘤の切迫破裂,急性膵炎,急性胆囊炎,急性胆管炎,腎盂腎炎などで疼痛が前面に出ず,悪心嘔吐,胃部不快感を主訴として受診する場合がある.
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▶FDは遺伝,環境因子,心理的要因,自律神経異常,脳腸相関などが関与しており病態生理の解明は不明な点が多い.
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▶緊急で処置や手術などの対応が必要ないわゆる急性腹症かどうかを判断する.
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▶限局した圧痛点がはっきりする場合は,その部位と随伴症状から鑑別を進めていく.
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▶急性の腹痛を実地医家でどこまで診断をつけるべきかについては,採血,CT検査などクリニックの検査環境によって変わるが,胃腸炎を除いては一度病院を紹介しておく方がよい.
Keyword:
症状からみた消化器疾患鑑別診断の進め方
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▶消化器疾患につながる自覚症状は多岐にわたるが,その一部は循環器,内分泌代謝,泌尿器,婦人科疾患など消化器以外の随伴症状として出現する.
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▶まず危険な兆候がないかを確認し,緊急対応が必要な疾患を除外したうえで鑑別診断を進めていく.
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▶嘔吐は延髄の嘔吐中枢が刺激され引き起こされる現象であり,消化器系の異常はその原因の一部にしか過ぎない.
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▶悪心嘔吐をきたす危険な疾患としては,急性冠症候群,敗血症,DKA,食物アレルギー,アナフィラキシー,電解質異常,くも膜下出血,小脳梗塞・出血,腸閉塞などがあがる.
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▶嘔吐が発症し数日以内の場合で下痢を伴えばウイルス性胃腸炎の可能性が高い.
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▶胸やけを主症状の一つとするGERDは強い痛みや睡眠障害を伴い患者QOLを著しく低下させる場合がある.
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▶上部消化管内視鏡検査をしたことがない患者(特に50歳以上)には悪性腫瘍を除外するために一度内視鏡を勧めておく.
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▶胃もたれの原因は,胃の排出遅延,適応性弛緩反応異常,内臓知覚過敏があり,器質的な疾患がない場合で慢性的なものはFDと診断される.
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▶急性冠症候群,大動脈解離,腹部大動脈瘤の切迫破裂,急性膵炎,急性胆囊炎,急性胆管炎,腎盂腎炎などで疼痛が前面に出ず,悪心嘔吐,胃部不快感を主訴として受診する場合がある.
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▶FDは遺伝,環境因子,心理的要因,自律神経異常,脳腸相関などが関与しており病態生理の解明は不明な点が多い.
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▶緊急で処置や手術などの対応が必要ないわゆる急性腹症かどうかを判断する.
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▶限局した圧痛点がはっきりする場合は,その部位と随伴症状から鑑別を進めていく.
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▶急性の腹痛を実地医家でどこまで診断をつけるべきかについては,採血,CT検査などクリニックの検査環境によって変わるが,胃腸炎を除いては一度病院を紹介しておく方がよい.
pp.978-985
発行日 2025年7月1日
Published Date 2025/7/1
DOI https://doi.org/10.50936/mp.42.07_005
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はじめに
消化器疾患につながる自覚症状は,胸やけ,悪心嘔吐,胃もたれ,腹痛,下痢,便秘,黄疸,食思不振,体重減少など多岐にわたる.またその一部は消化器疾患に特異的なものではなく,循環器,内分泌代謝,泌尿器,婦人科疾患など消化器以外の随伴症状として出現する.本稿では,実地医家を対象とするにあたり単に症候から鑑別疾患を羅列するのではなく,まず危険な兆候がないかを確認し,緊急対応が必要な疾患を除外したうえで鑑別診断を進めていく.初期の診断でウイルス性胃腸炎を疑った場合でも,何か気になる点があれば1週間以内に再度診察を行い,重篤な状況に陥っていないか経過観察しておきたい.実地医家の先生方には,“頼りすぎず,一方で粘りすぎず”といった難しい舵取りが必要な場面があると考えている.教科書的な診断理論に加え,臨床経験に基づくいわゆる“医師の勘”も交えた診療が求められる.

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