連載
脳におけるエストロゲンの見えざる作用 第32回 ―エストロゲンと不安関連疾患―
武谷 雄二
1
1東京大学名誉教授/医療法人社団レニア会アルテミスウイメンズホスピタル理事長
pp.67-71
発行日 2022年3月1日
Published Date 2022/3/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.29.01_0067-0071
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一般に,女性は男性に比べ不安や恐怖に対する感受性が高く,不安状態やうつ状態に陥りやすい。そのため不安障害,うつ病,心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder;PTSD),パニック発作/障害などの発症リスクは男性より高い1)。不安関連疾患は就学や職業などにも影響を及ぼし,人生の質(quality of life;QOL)を著しく低下させる。特に不安が根底にある精神疾患は昨今,社会問題化しているメンタルヘルスの失調の主要な原因となっており,その対応は喫緊の課題となっている。不安関連疾患が女性に多いことは,女性特有の生物学的因子,社会学的役割などが背景にあることが推測される。不安と関係する脳内領域,たとえば前頭前皮質,海馬,扁桃体などの形態には性差がある。さらに,不安関連疾患の性差は思春期から明らかとなり性成熟期に最も著明となり,閉経以降は年齢とともに性差は縮小する。また,不安状態は月経周期や産褥,閉経などreproductive stageと密接に関連する。加えて,ストレスに対する脳の応答には性ステロイドホルモンが関係している2)。このような状況証拠から,エストロゲンが不安・恐怖への対処と関係していることが示唆されている3)。本稿では不安が関連する精神疾患にエストロゲンがいかに関わっているかを概観する。
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