- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
医療関連感染のアウトブレイクは,主に医療環境や医療従事者の手指などを介して伝播することで引き起こされる。感染対策の基本は手指衛生であり,その遵守により微生物の伝播防止が可能となる。しかし実際の臨床現場では,手指衛生の遵守率は十分であるとは言い難い。図1に示すように,清浄なテーブル表面を衛生学的手洗い後に触ってもアデノシン三リン酸(Adenosine Triphosphate:ATP)値は低値で推移するのに対し,ケア後の手で触ると触れた人数に応じてATP値の上昇が認められる。連続して10人が触れるとATP値は900RLU(Relative Light Unit)以上の値となり,手→物→手の経路での伝播による感染リスクが高まることがわかる。加えて,環境表面に付着する微生物のなかには,表1に示すように乾燥した状態で長期間生存できる細菌が存在する1,2)。そのため,微生物の伝播リスクを低減するためには,医療従事者や患者が頻繁に接触するドアノブ,ベッドの手すり,ライトのスイッチ,病室のトイレなどの環境表面の定期的な清拭と消毒,および確実な環境整備が重要となる。
一般的に日常的な療養環境の消毒は必要ではないとされているが,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae:CRE)やClostridioides difficileなどにより汚染された可能性がある場合は,環境表面の清拭と消毒が重要である3-5)。多くの医療関連施設では,医療従事者や患者が頻繁に接触する環境表面に対して,低水準消毒薬やアルコールなどが含浸された清拭クロスを用いた清拭と消毒が実施されている。
本稿では,清拭クロスを用いた清拭の基礎検討について述べたのち,環境消毒薬の殺菌スペクトルと消毒効果に対する有機物の影響について解説する。
Copyright © 2020, Van Medical co., Ltd. All rights reserved.