- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
肥満の有病者数は欧米のみならずわが国においても増加しています.肥満は,2型糖尿病や脂質異常症,高血圧症をはじめとする代謝性疾患や心血管疾患の原因として重要であり,医学的・社会的に解決すべき大きな課題となっています1).
遺伝的な要因に加えて,不適切な食事や運動不足などの生活習慣は,脂肪組織の量的・質的な変化を引き起こすことが最近の研究により明らかになってきました.すなわち,脂肪細胞の肥大化に続き,マクロファージに代表される炎症細胞浸潤による慢性炎症とアディポネクチン・レプチンと呼ばれるアディポカインの産生調節の破綻によりさまざまな代謝性疾患が引き起こされると考えられています2).
このような代謝性疾患の一つとして代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)が知られています.MASLDは,肥満や他の代謝性疾患とともに増加しており,成人におけるその有病率はおよそ30%と推計されています.さらに,MASLDの10%程度は代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)と呼ばれ,肝硬変や肝癌へ進展しうる予後不良の疾患であることが知られています.
最近の研究において,全身の代謝調節に腸内細菌が非常に重要な役割を担うことが示され,大きな注目を集めています.このようなメカニズムとして,腸内細菌がつくり出すさまざまな代謝物が,全身の臓器に作用する可能性が示されています3,4)(図1).京都大学の岸野重信博士,小川 順博士らは,乳酸菌に代表される腸内細菌が,食事脂質に含まれるリノール酸を飽和化する過程で,水酸化脂肪酸,オキソ脂肪酸,共役脂肪酸などの複数の脂肪酸を産生することを明らかとしました(図2)5).このような代謝物のなかでも,HYA(10-
ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸)と呼ばれる脂肪酸は,乳酸菌などの腸内細菌がもつCLA-HY(水和脱水酵素)によって,リノール酸からつくられる最初の代謝物です(図2)5).リノール酸の過剰摂取は,炎症誘導などのメカニズムにより,健康に悪影響を及ぼす可能性がありますが,リノール酸から産生されるHYAは,抗炎症作用や糖代謝改善作用などを有することが動物実験において報告されています.
私たちは最近,HYAが肥満の脂肪組織において脂肪細胞の肥大化を抑制すること,また,MASHにおける肝線維化を改善することを見出したので,本稿において概説します.

Copyright © 2026 Ishiyaku Pub,Inc. All Rights Reserved.

