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はじめに
「持続可能で健康的な食事」,あるいは「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」という言葉を聞いたことがあるだろうか.最近では,大豆を使った代替肉製品を「サステナブルな……」といった謳い文句で販売しているスーパーやレストランチェーン店も増えてきているため,耳にしたことがある人もいるかもしれない.
2019年に,国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)によると,「持続可能で健康的な食事」は次のように定義されている1).
―個人の健康と幸福のあらゆる側面を促進し,環境への負荷が少なく,入手しやすく,手頃な価格で,安全かつ公平であり,文化的に受容しやすい食事パターン
もう一方の「プラネタリー・ヘルス・ダイエット(地球の健康的な食事)」は,同2019年に世界16カ国37人の研究者から成るグループ(EATランセット委員会)が提唱したものである.詳細は後述するが,食事と食システムのあるべき形と解決方法に向けて提示した食事のあり方として示されている2).
このような指針や提唱に表れているように,近年の栄養疫学研究では,人々の食事に関し,人間の健康に貢献することだけでなく,環境の持続可能性にも着目した研究が増えてきている.この背景には,私たちの日々の食事を支える食システム(農林水産業から,食品製造業,食品卸売業,食品小売業,外食産業を経て,最終の消費者の食生活に至る食料供給の一連の流れ)が与える地球環境への影響が,決して少なくないことが明らかになってきたことがあげられる.地球全体の,全産業から排出される温室効果ガス排出量のうち,およそ1/4~1/3は,フードシステムに由来するとされる2,3).ここには,食品の輸送だけでなく,農場での生産やそこで使われる化学肥料や農薬,工場での加工,包装,保管,廃棄などの過程も含まれる.また,地球全体の土地の1/4を農場が占めているほか,農業生産には,地球上の利用可能な淡水の70%が使われているとされる2).
どのような食品がどのくらい生産され,流通するかは,消費者の需要によって左右される.このため,食事に関連した環境の負荷を減らすには,生産,加工,流通などの食品の供給側だけでなく,需要側からも努力が必要である.人々が,食品の摂取パターン(食品の種類と量の組み合わせ)を変えることで,環境負荷の削減に寄与できる可能性がある.
本稿では,「持続可能で健康的な食事」に関連する研究のなかでも,地球環境の保全と人々の健康への貢献の両立をめざした研究について概説する.

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