連載 ケースから学ぶ臨床倫理推論・3
事前指示
-――過去の意向をどこまで尊重すべきか
田代 志門
1
Shimon TASHIRO
1
1東北大学大学院文学研究科社会学専攻分野
キーワード:
事前指示
,
有効性と適用可能性
,
意思の推定
Keyword:
事前指示
,
有効性と適用可能性
,
意思の推定
pp.869-872
発行日 2025年3月8日
Published Date 2025/3/8
DOI https://doi.org/10.32118/ayu292100869
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Case 終末期患者の事前指示と現在の最善の利益の対立
患者Aは肺がんの末期で緩和ケア病棟に入院している70代の女性である.骨転移による痛みが大きく,夜もうなされている.しかし,「自然ではないものは体に入れたくない」という本人の意向により,現在まで鎮痛薬は投与されていない.入院の際の面談では,意識がなくなった際にもあらゆる投薬を拒否するとの発言があり,カルテにも記録が残っている.ただし入院後は,度重なる娘からの要請もあり,本人も納得のうえで少量の睡眠薬を服用するようになっていた.
ここ数日,がん性髄膜炎の悪化に伴い,次第に意識状態が低下してきており,本人の意向を確認することが困難になってきている.他方で,これまで以上に苦悶様表情の時間が増え,日々付き添っている娘も本人が苦しそうにしている状態を見ているのがつらいと担当医に訴えてきた.本人は入院時には意識が低下しても鎮痛薬の使用を拒否すると明確に述べていたが,その意向に反して疼痛緩和のための投薬をすることは倫理的に許容されるだろうか.

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