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疫学(epidemiology)とは,ギリシャ語のEpi(among,upon)Demos(people)Logos(study)からなり,人々の間に起こる事象,主として,疾病に関する学問である.“疫” という漢字から,伝染性疾患に関する学問という印象を与えるが,その語源はかならずしも伝染性疾患に限らない.国際疫学会は疫学を,「特定の集団における健康に関連する状況あるいは事象の,分布あるいは規定因子に関する学問」と定義しており1),その重要性は17世紀半ばに感染症領域で注目された.その後,1775年にロンドンの煙突掃除人に陰囊癌が好発することが指摘され2),3年後には煙突掃除夫保護条例が制定された.19世紀半ばにはコレラの研究,その後,癌や心血管疾患など慢性疾患へと拡がり,糖尿病領域では19世紀半ばにようやく本格的な疫学的研究が行われるようになった.疫学は発症率,有病率,死亡率に代表される記述疫学と分析疫学に分けることができる.記述疫学ではありのままの実態を観察し,その時間的,地理的そして宿主(主に性,年齢,人種)の分布の相違から,それを説明する仮説を導く.分析疫学では正確で完全な記載が要求される.さらには疾病の定義,捕捉率と追跡率,バイアスなどをしっかりとらえたうえで,資料の信頼性の限界を押さえることも欠かせない.コンピュータはそれだけでは空箱である.ゴミを入れたら,いくら高度な統計処理を行ってもゴミしかでてこないからである.また,相関関係と因果関係を明確に分けることも必須である.本稿では “疫学とはどのような学問か” という視点に立ち,特に小児期に発症した1型糖尿病に焦点を当て,その発症率の推移と今後に残された課題を考察した.
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