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2013~2021年までヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは投与後に重篤な副反応が起こるかもしれないとして定期接種の積極的勧奨が中止された.勧奨接種再開までに要した8年で,世界中で子宮頸がんおよびその前がん病変が減少するなかで日本は完全に取り残されている.ようやく,2021年11月に政府はHPVワクチン接種勧奨を再開した.しかし,副反応問題とは何だったのかを総括しないかぎり接種率を以前の状態にまで上げることは難しいと思われる.接種勧奨を中止して2年後の2015年から厚生労働省の疾病・障害認定審査会へHPVワクチンによる健康被害申請がはじまった.HPVワクチンの重篤な副反応の疑いとされた症状は頭痛,脱力,慢性疼痛,微熱,神経麻痺,しびれ,筋力低下,倦怠感,不眠,めまいなど多様であった.審査会の記録によると2018年までの集計では61件の申請が行われ,因果関係が否定できないとして救済措置がとられたのは28件(17.1%)にすぎなかった.ワクチン接種による副反応であるかどうかを考える場合に最も重要なのは,ワクチン接種から発症までの期間とその経緯であろう.ワクチン被害者と,それと同じような症状を訴えた男女について調べた祖父江班研究では,ワクチン接種者以外にも同様の症状を有する患者が存在すること,ワクチン接種から副反応疑い症状の発症までの期間は,ほとんどの患者で2カ月後以降であったことが判明した.HPVは本来,不顕性に感染するウイルスであり,その外郭タンパクから構成されるウイルス様粒子(VLP)が多様な症状を起こす可能性は科学的に考えにくいと思われる.HPVワクチンは,L1タンパクの集合体のVLPであり感染性がなく,不活化ワクチンに分類されている.生ワクチンとは異なり,ワクチンを投与して副反応が発症する期間は通常はきわめて短く,せいぜい4週間以内と思われる.多様な症状は,複合性局所疼痛症候群(CRPS),体位性頻脈症候群(POTS)に酷似するが,WHOはHPVワクチン投与とそれらの症候群との関連はないと公表した.同時に用いられたアジュバントが多彩な症状の原因である可能性があるが,これらのアジュバントはこれまで他のワクチンにも使われてきたものであり,短期に局所反応を起こしうるが,全身性の多彩な症状を起こしたという報告はない.健康被害申請が承認された理由は,接種後に多彩な症状が認められたことで因果関係を否定できなかったためと思われる.日本で報じられた重症の副反応疑いとされたほとんどの症例の時間的関係と経緯にはワクチンとの因果関係を認めるには疑問点が多く,思春期の女子に多く発生するPOTSなどの紛れ込みであった可能性が高いと思われる.
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