連載 ユニークな実験動物を用いた医学研究・Vol.13
線虫C. elegansを用いた学習を制御する神経機構の解明
飯野 雄一
1
,
佐藤 博文
1
Yuichi IINO
1
,
Hirofumi SATO
1
1東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
キーワード:
塩走性
,
シナプス伝達
,
味覚神経
,
一次介在神経
Keyword:
塩走性
,
シナプス伝達
,
味覚神経
,
一次介在神経
pp.243-250
発行日 2022年1月15日
Published Date 2022/1/15
DOI https://doi.org/10.32118/ayu28003243
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Summary
線虫C. elegansは体長1mmほどであり,約300個の神経細胞からなる神経系を持つ.神経系を構成する細胞はひとつひとつに名前が付けられており,また神経細胞同士の接続も明らかになっている.線虫の神経系は単純ではあるが,さまざまな刺激を受容し,学習行動を示すことが知られている.これらの行動を制御する機構については多くの研究が行われているが,一例として本稿では塩(NaCl)に対する学習を制御する機構について最新の知見を紹介する.塩については,線虫は過去に餌とともに経験した塩濃度を記憶し,その濃度に誘引される.この経験依存的な塩走性の機構を明らかにするために,線虫の行動と神経活動を同時に測定できる装置が開発され,個々の神経の活動と行動変化を対応付けることが可能になった.その結果,塩濃度の記憶に基づく行動調節が,感覚神経ASERから下流の介在神経AIBへのグルタミン酸によるシナプス伝達によって制御されることが明らかになった.またAIB神経では興奮性と抑制性の2種類のグルタミン酸受容体が機能することが示唆された.これらの知見は,動物の学習機構の解明に寄与することが期待される.
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