Japanese
English
TOPICS 細菌学・ウイルス学
黄色ブドウ球菌のステルスモード:Agr系の相変異
Finding of Agr phase Variants in Staphylococcus aureus
森川 一也
1
Kazuya MORIKAWA
1
1筑波大学医学医療系感染生物学(細菌学)
pp.300-302
発行日 2021年4月24日
Published Date 2021/4/24
DOI https://doi.org/10.32118/ayu27704300
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黄色ブドウ球菌の臨床株の多くにはAgr系に変異がある
黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusは定着因子,分泌毒素,免疫攪乱因子など多様な病原因子を獲得している.これら病原因子群のマスターレギュレーターが,Agr(Accessory gene regulator)系である(図1).Agr系は細菌自らが分泌する修飾ペプチド(auto inducing peptide:AIP)を感知して応答するクオラムセンシング系で,細胞密度が高くなったり,ファゴソームに閉じ込められたりした際に活性化する.Agr系が活性化すると発現するRNAIIIというRNA分子は,溶血毒素の一種(δヘモリジン)をコードするとともにそれ自体が機能性RNAとして働き,一連の接着因子群の発現を抑制し,分泌タンパク質群の発現を誘導する.すなわちAgr系は共生・慢性感染の状態から,侵襲性感染の状態にシフトさせる重要な制御系である.しかし,逆説的であるが,臨床分離の黄色ブドウ球菌株の大部分(筆者らの調査では半数程度)は,Agr系が変異により不活性化されている.これらの変異体は,宿主での生存(たとえば免疫系からの回避)に有利であると考えられているが,dead-end変異体,すなわち次の感染症を起こすことなくその系譜を終える運命のものだと思われてきた.
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