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重度の認知症による摂食嚥下機能低下の原因として,口腔原始反射の再出現による咀嚼機能や嚥下機能の消失がある.今回は,認知症の進行にともなう原始反射の出現頻度の増加や筋緊張の悪化が認められ,誤嚥および経口摂取率の低下が懸念された高齢者に対して,管理栄養士による栄養管理と合わせ,多職種でかかわり安全な経口摂取および安定した経口摂取率を維持することができた症例を報告する.【症例】70代後半,女性.脳出血後遺症により右半身麻痺と全身の痙縮があり,食べこぼしが多かった.さらに,口腔原始反射の再出現により啜り食べがみられ,経口摂取量不足となり,6ヵ月間で4.7%の体重減少がみられた.【経過】筋緊張による食べこぼし,および原始反射による啜り食べに対し,食具と姿勢介助に対してアプローチを行った.徐々に,啜り食べの頻度が増加し,咽頭流入と嚥下のタイミングにずれが生じ,誤嚥を引き起こすことも増えたことから,水分を中間のとろみからコード0j相当のジュレに変更した.また,食形態もコード3からコード2-2に段階的に変更した.食事時間の延長に対しては,疲労回避のため一度に提供する量を半量とし,補食を追加し,分割食とした.【考察】原始反射による啜り食べの頻度が増加すると,咽頭流入と嚥下のタイミングにずれが生じ,誤嚥を引き起こしやすい.注意深く摂食の様子を観察し,水分摂取方法や食形態の変更により安全な摂取となるよう対応する必要がある.認知症を有する場合,自分の感情や想い,疲労を含めた身体的状況をうまく伝えられないことが多々ある.そのため,利用者の表情や身体状況などから,スタッフが把握する必要がある.本症例でも,疲労を懸念し,分割食とした.誤嚥していないからよいではなく,利用者の心身の機能に合わせた柔軟な対応が求められる.
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