皮膚科医学史
妖怪アマビエと温熱性紅斑に関わる来訪神の伝承
岡田 寛文
1
1自治医科大学皮膚科学講座
pp.654-655
発行日 2021年7月1日
Published Date 2021/7/1
DOI https://doi.org/10.24733/pd.0000002551
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アマビエをご存じだろうか.疫病から人々を守るという伝承があり,新型コロナウイルス感染症の流行防止目的で厚生労働省の啓発アイコンにも採用された妖怪である(図1)1).1846年に作成された瓦版によると肥後国(今の熊本県)の海中に現れて疫病の流行を予言し,予防策として自身の写し絵を人々にみせよと述べたとの伝承がある2).1853年のアメリカの黒船来航により幕府は開国に追い込まれたが,1858年に同国の軍艦ミシシッピ号によりコレラが長崎からもたらされ,予言通り日本全国で大流行した.コレラは発病から死に至るまでが迅速を極め,即死病,一日コロリ,三日コロリと恐れられた.病死人のあまりの不思議な死に様に人々は妖怪変化の憑依をみたとされる3).当時の治療は灸,歌をよむこと(言霊),効かない薬物や食事,神社仏閣の神事とお札,鐘・太鼓を打ち鳴らすことなどに委ねられていた4).事実,アマビエの伝承とほぼ同じ内容の刷り物がコレラ除けとして流行時に販売された記録がある5).古来日本人は疫病の流行や自然現象に遭遇したとき,畏怖を込めて妖怪の仕業ではないかと考えてきた.神事や妖怪などの伝承は地域住民の生活環境や信仰を背景にしたものが数多く存在する.伝承を読み解くことで当時の状況や,未知の病気へどのように向き合ってきたかがみえてくる.
(「はじめに」より)
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