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皮膚糸状菌の同定方法は時代とともに変遷しており,かつては培養,鏡検,生化学反応による形態・生化学的同定が主流であったが,現在は分子生物学的手法が普及している.しかし,検査の時間・経済的な課題があり,塩基配列による種分類の解釈や新たな分類をめぐり,逆に混迷を深めている事実もある1).そこで,客観性,再現性が高く,かつ迅速,安価である新たな同定方法が求められている. 近年,微生物菌種同定の新しい手法として,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(matrix assisted laser desorption ionization - time of flight mass spectrometry:MALDI-TOF MS)を用いた方法が急速に普及している.当院検査部では 質量分析装置 MALDI Biotyper(ブルカージャパン株式会社:図1)を日常臨床検査に使用することで一般細菌の同定が迅速化し,抗酸菌や酵母様真菌にも応用している2).皮膚糸状菌の菌種同定への応用についても,臨床分離株の同定例や新規のデータベース作成を試みた研究が国内外で報告されている.今回天理よろづ相談所病院皮膚科でも,すでに菌種同定されている株,臨床分離株に対して質量分析装置を用いたので,その測定結果と今後の皮膚糸状菌同定への応用の可能性について,MALDI-TOF MSの概要を含め報告する(注:筆者の要石が2019年3月まで,同皮膚科に在籍). 現状では,本法は他の菌種同定法を補完する位置づけであり,今後は前処理方法の標準化や汎用可能な信頼度の高いデータベースの構築などの課題を検討する必要がある.しかしその経済性,迅速性,簡便性などから,次世代の皮膚糸状菌同定の臨床検査法として応用が期待される.(「はじめに」より)
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