特集 周産期の薬物療法 update 2025 産科編
各論:産科的病態
妊娠高血圧症候群の薬物療法
金 蒼美
1
,
味村 和哉
1
KIN Sohmi
1
,
MIMURA Kazuya
1
1大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室
pp.927-931
発行日 2025年8月10日
Published Date 2025/8/10
DOI https://doi.org/10.24479/peri0000002247
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はじめに
妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)は全妊娠の約5~10%に発症する頻度の高い疾患であり,重症化すれば母児の生命を脅かす深刻な病態である。母体には,子癇,常位胎盤早期剝離,HELLP症候群,肺水腫,脳出血などの重篤な合併症を引き起こす可能性があり,児においては胎児発育不全,子宮内胎児死亡,さらには新生児死亡を招くことがある。世界的には,HDPに起因する母体死亡が年間約5万人,周産期死亡が50万人以上と報告されており,その影響は甚大である1)。現在のところ,HDPの病態そのものを改善する予防薬や治療薬は確立されていない。そのため,ひとたびHDPを発症した場合には,入院安静や降圧薬の使用といった対症療法が中心となる。HDPに対する唯一の根本的治療は分娩であり,これにより病態の進行を停止させることが可能となる。しかし,早産期での分娩は児の未熟性を伴うため,母体の全身状態と児の未熟性のバランスを慎重にみきわめ,最適な娩出時期を決定する必要がある。

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