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SARS-CoV-2の発生
2020年1月,中国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のヒトへの感染が確認され始めると,その臨床像は,私たちがよく知る季節性インフルエンザのそれよりはるかに重篤なものであったが,個人的には,身に迫る危険というより,ちょっとした海外の呼吸器ウイルス感染症としてとらえていた。1997年,香港で発生した鳥インフルエンザウイルス(H5N1)のヒトへの感染と同様のものであろうと。国内では,2020年1月28日,新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める政令等の施行通知が発出されたが,まだ,内閣府にも眼前に迫るパンデミックの脅威という認識はなく,当時首相であった安部総理の動向も,2020年1月16日,宮中での歌会始の儀へのご出席,1月19日,日米安全保障条約60周年記念レセプションへのご出席と,例年の新年行事を執り行っていた。1月28日,海外渡航歴のない国内在住の方から,初めてSARS-CoV-2が同定された1)。さらに,鹿児島,香港,ベトナム,台湾,沖縄に立ち寄り,2月3日,横浜港に寄港したクルーズ船ダイアモンドプリンセス号(DP)でSARS-CoV-2感染者が次々と報告された。無症状,もしくは軽度の上気道症状のみのであってもウイルス性肺炎を高率に合併する報告は散見されたが,依然として臨床像がよくわからなかった。DP内では急激に感染者数が増加し,2月20日には同感染者内で初めての死亡例が報告された。その後,死亡者数は増加し,2月中だけで6名が報告2)されると,国内でもSARS-CoV-2の「感染しやすさ」と「病原性の高さ」は大きな注目を集め,2020年2,3月の厚生労働省の報道発表資料のほぼすべてが,SARS-CoV-2関連になった3,4)。3月11日,WHOは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的な大流行,つまりパンデミックであると宣言した5)。3月14日,国内では,COVID-19が新型インフルエンザ等対策特別措置法の新型インフルエンザ・再興型インフルエンザ感染症に規定され,感染症法上,2類相当に位置付けされた。このときから3年以上の長きにわたり,緊急事態宣言,蔓延防止等重点措置,各検疫所での検査の強制,感染者の隔離措置や入院命令,健康状態調査,建物の封鎖と交通制限,さらには罰金刑や刑事罰の議論など,我々が今まで経験したことのない強力で,かつ強制力をもつ感染対策が実装された。
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