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2015年の世界の医薬品販売額で上位10品目中7つは生物学的製剤である。生物学的製剤とはBiological agents/Biologicsの訳であり,バイオ医薬品/バイオ製剤/バイオとも言う。7つのうち4つは免疫性炎症性疾患の治療薬であり,その投与で関節リウマチ等の免疫性炎症性疾患の治療効果が飛躍的に向上した反面,結核や非結核性抗酸菌症,細菌性肺炎,ニューモシスティス肺炎などの感染症が多発している。私は,バイオ医薬品が最初に日本に導入された2003年から安全性担当委員などとして,その開発や市販後臨床試験にかかわってきたが,近年の開発はますます盛んであり,毎年,複数の新薬が承認されている。まるで1980年代当時の抗菌薬開発の勢いを見ているようであるが,一方の抗菌薬の開発は近年さらに停滞し,新規抗菌薬の承認がまったくない年のほうが多くなってきている。 抗菌薬を含めて医薬品でもっとも多いのは化学合成品(化合物)である。しかるに,バイオ医薬品は化合物とは異なり,ヒトなどの生物由来の材料(免疫グロブリンやその遺伝子など)から生物工学の手法により作られている。その開発の手法を一度参照してみてはいかがだろうか? 免疫性炎症性疾患の代表である関節リウマチの治療薬はこれまで,アンカードラッグとして現在も使用されているmethotrexateなどの化学合成品(化合物)であったが,21世紀に入って主流はバイオ医薬品に代わった。すなわち,治療の主役は分子量の小さな化合物から分子量の大きな高分子物質へ転換してきているのであり,その製造も化学合成ではなく,培養その他のプロセスを経る複雑な工程へと変化している。手間と費用はもちろんかかるが,現在はその効率化が急速に進んでコストも急速に低下している。 一方,抗菌薬はどうであろうか? 昔は大きなタンクを用いて培養した菌液から目標の物質を単離・精製していたが,近年はもっぱら化学合成が製造の主役である。免疫性炎症性疾患の治療薬の開発とはまったく逆の過程をたどっているが,目標の物質がたまたま低分子物質だったからであり,また,コストの面からの要請でもあった。ただし,バイオ医薬品の分野で培養を含むプロセスの合理化が目覚ましく,コストも急速に低下している現在,昔の方法論をもう一度見つめ直してはいかがだろうか? 原点に立ち戻って,昔の製造工程を見直す,あるいはさらに候補物質の探索ももう一度,昔に戻ることで何かしら新しいヒントが得られないであろうか? ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生はゴルフ場の土からイベルメクチンを発見して開発・実用化につなげたのであり,視点を大きく変えればまだまだ道は開けるものと考えている。若い諸氏の奮闘を期待する。