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わが国の感染症診療はこの10~15年余りで大きく変化してきている。ちょうどミレニアムと呼ばれた2000年頃から筆者は国内の変化を目の当たりにしてきた。2004年には卒後臨床研修制度がはじまり,日本の臨床教育は歴史的な変化を遂げた。その翌年から国内の医学部に勤務をはじめ,感染症科の専門診療を開始する機会をいただいた。当時は,2001年のバイオテロリズムを受け,標準予防策の認知や普及に力を入れていた。また,院内アウトブレイクがメディア報道で大きく取り上げられはじめ,感染対策の重要性が社会的なニーズとして認識された。さまざまな病院で臨床研修をよくするための活動が広がり,医療面接,身体所見,体系的な鑑別診断,そして感染症診療でもっとも重要な検査のひとつである血液培養2セット採取の流れができてきた。当時は保険診療で血液培養2セットの採取が認められていなかったが,それも現在では認められている。また抗菌薬の適正使用に関して,抗菌薬の保険承認用量の内外格差も認識され,国民に最適の診療を届けるという観点から多くの抗菌薬の用量および適応症・適応微生物が追加・変更となった。追加試験により承認された場合や公知申請による場合もあった。各地,各施設での勉強会,研究会も盛んに行われている。総合診療・総合内科の認知および普及と同期し,感染症診療の教育もあわせて行われることが増えてきた。 感染症領域の専門性にも変化がみられている。日本感染症学会は,300床規模の病院に1名の専門医を配置するため,3,000~4,000名程度の専門医が必要であると提案している。 臓器横断的な感染症の専門診療を行える人材育成が望まれる。さらに微生物学の基礎研究のみならず,臨床研究,疫学研究も少しずつ施行されてきており,日本からもエビデンスを発信するための研究が進められている。 このように,わが国では臓器横断的な専門診療科である感染症の診療文化が大きく変化してきた。それは教育制度・教育文化の変化とともに起こってきたことである。“石の上にも3年”とのことわざ通り,一施設の感染症診療の質の向上には時間を要する。しかし診療文化を,地道に,少しずつであっても屋根瓦方式による教育で着実に変化させ,根付かせる努力をすれば,10年後には大きな変化となって体現することを,これまでの10~15年間が物語っていると感じる。当院(水戸協同病院)を卒業した研修医の先生の言葉が印象的である。“レクチャーよりカルチャー”。診療文化の変化は講義よりも格段にパワフルであり教育的である。今後も良質の感染症診療を患者に提供するため,地道に,しかし明確なビジョンをもって多職種で協力して前進しよう。それが感染症診療の未来を拓くと確信する。