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現在勤務している病院(武蔵野赤十字病院)に赴任して以来,臨床感染症医を育てようとしてきた。実際,私のところでトレーニングを受けてくれた人たちは皆よい感染症医になってくれた。 感染症医になるためには,まずは内科の基礎が必要であると思っている。すなわち,よい内科研修を受けている必要がある。初期研修終了後,少なくとも数年間の内科研修が必須で,その内容は総合内科や総合診療科などと言われているものである。内科系の専門診療科のローテート研修でもよいが,その場合はなるべく多くの科を回り,いわゆるジェネラルマインドを忘れないことが必要であろう。感染症医はすべての臓器の感染症を診るのだから。 臨床感染症のトレーニングもまずはgeneral IDが必要と考える。そのためには総合病院の感染症科がよいであろう。その中で,一般感染症,免疫不全者の感染症,HIV,STI(性感染症),結核,輸入感染症,travel medicine,移植感染症,臨床微生物学,感染管理などを経験し学べるとよい。しかし,これらが揃っている病院はきわめて少ないので,トレーニング中に他施設に研修に行くことになるであろう。 感染症科が他の診療科のように多くの病院に存在し,医師数もある程度いるという状況になるためには,やはり診療報酬などで診療科としての基盤がしっかりしていることがきわめて大事なことのひとつだと思っている。わが国でも臨床感染症科の仕事は他科からのコンサルテーションであることが多いと思うが,このコンサルテーションに診療報酬が付かない限り,感染症科のことをあまり評価してくれない病院が今後も存在し続けるのではないかと危惧している。コンサルテーションに加算を付けるだけでは駄目で,やはり診療報酬が必要であろう。俗な言い方をすると,儲けを出せる診療科でないと駄目なのである。もちろん,コンサルテーションに対する診療報酬以外にもよい方法はあるだろうから,感染症医たちのあいだで議論していくことが大事であろう。 わが国でもAMR(薬剤耐性)対策アクションプランが昨年(2016年)策定された。耐性菌を増やさない感染症診療については,初期研修時代にご指導いただいた喜舎場朝和先生,遠藤和郎先生から,その哲学も含め骨髄に残るような素晴らしい基礎を授けていただいた。耐性菌をこれ以上増やさないためには臨床感染症医がいきいきと働くことが大事であり,そのためにも上記のような診療報酬が必要であろう。 なお,よい臨床感染症医を育てるためには,よい臨床感染症の実践を知っている感染症科以外の医師も必要であり,そのためには医学生や初期研修医らにそれに触れてもらうことも大事であろう。すなわち,感染症医が医学生や初期研修医と一緒に時間を過ごしたり,教えたりすることである。そしてその中でグラム染色(スメア)を教え,実践してもらい,臨床に活かしてもらうことは,きわめて大切であると思っている。