Derm.2008
育てるということ
水川 良子
1
1杏林大学医学部皮膚科
pp.117
発行日 2008年4月10日
Published Date 2008/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412101982
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子育てをしていると,“育てる”ということの難しさを痛感することが多い.
“育てる”という言葉には,①成長させる,養育する,②教え導く,しこむ,③おだてる,煽動する,といった意味があるとされる.成長させるにしろ,教え導くにしろ,一朝一夕になせることではない.幸い医局の後輩たちはみな優秀で,“育てる”よりも“育つ”タイプの人材ばかりだが,わが子たちに接していると,いたたまれないような時もある.一方で,学ぶべきことも多いと思うのだ.やるべきことをやらない場合にも,本人はやらなければいけないことを頭ではキチンと理解できているのだが,それを他人に指摘され指導されるとやる気がなくなるようだ.親や大人にとって当たり前であることが子どもには当たり前ではないし,「自分だったらこうするのに」と言うことは,親子でさえも言われる側の心を閉ざしてしまう.やらないのは,トラウマあるいはそれに近い状況をヒトは無意識に避けるからだと,以前に読んだことがある.負の記憶というものは心に潜伏し,結果として “やらない” あるいは “先延ばしする” 選択肢を選んでしまうらしい.“やる気が出るように叱ってよ”と要求されるのだが,これがまた難しい.親子ゆえかもしれないが,“育てる”とは容易なことではない.育てる側も育つこと,変わることが必要なのだろう.優秀な後輩に恵まれて,私自身は普段は育てることの難しさを全く感じずにすんでいるが,私の上司たちは,きっと苦労した(ている)に違いない.
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