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団地に住む新米主婦が妊娠して,それでなくとも出産に対して神経質になっている時に,朝日新聞の家庭欄に取り上げられた分娩に際してのさまざまな人びとの特殊な経験は,私どもにはとても考えもできないショックな記事でした。"本当にそんなことがあるのかしら!"記事を読んだ人びとそれぞれが考えたことではないでしょうか。私の頭の中では「産院の助産婦さんは,そんなに冷たい人びとなのかしら?」「そういえば姉の出産の付添いで病院に行った時助産婦さんに「ずいぶん叱られていた人がいたわ」私がもしそんな時に当たったらどうしよう」などという考えが駆けめぐり,不安が増すばかりでした。これは相当の覚悟を持って入院しなければいけないわ。もっとも陣痛の痛さを思えば覚悟などあたりまえのことですし,人間ひとりをこの世の中に出すのですから当然ですけど,やさしくされるのに越したことはありませんから,私たちの不安な気持を少しでも汲み取っていただきたいと思います。それこそ十月十日種々なことを考えるものです。
予定日を3日過ぎ陣痛も5分間隔になって母に伴なわれて夕方4時50分ごろに産院に着きました。入院しようと思って産院に行ったのはこれで2度目です。昨日の朝は15分間隔で陣痛があったので外来に行きましたところ,先生に「まだこのぐらいの痛さでは生まれませんよ」といわれ家に帰りました。痛さはだんだん強くなり間隔も短く産院に着いてホッとしました。夕方でしたので,2階の助産婦さんのところに直接行きましたら若い助産婦さんが「何分おきに痛みがきますか」「5分おきぐらいなのですが」というと「こちらに来てください」と分娩待合室のベッドに案内してくださいました。私のほかにもうひとりいるだけで,あとのベッドはあいていました。婦さんが親切に診察してくださいまして「まだ時間があります」といわれましたが,痛みはますます間隔が短く強くなってきて,急にお腹の中で押されるようにきました時,私はすぐにボタンを押しました。
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