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2015年4月に厚生労働省医政局地域医療計画課より「薬剤耐性菌対策に関する提言」が出された。その中で,「医療機関は,入院患者に対して,注射及び内服の抗MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)薬,広域スペクトラム抗菌薬,真菌血症等の侵襲性真菌感染症に対する抗真菌薬等を使用する場合,届出制・許可制にとどまらず,感染症を専門とする医師,または抗菌薬の適正使用について特別に研修を受けた薬剤師や検査技師,看護師等による介入を積極的に行う体制を整備すべきである」と明記されている。これは米国から提唱されているAntimicrobial stewardshipという概念に相当するものである。 わが国では感染防止対策加算が算定できるようになったこともあり,多くの病院で院内感染対策チーム(Infection Control Team:ICT)が組織され活動している。医師・看護師・薬剤師・検査技師による多職種のチームであり,そのおもな目的は院内感染を未然に防ぐ「予防」のためのチームである。一方,Antimicrobial stewardshipという概念のもとに新しく生まれた抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)はICTと同様の多職種で構成されているが,いわば「治療」のためのチームである。抗菌薬による治療の開始から終了まで各診療科の主治医を支援していくことがおもな役割である。しかしながら,わが国ではASTが独立して活動できている施設は少なく,ICTが兼務しているのが現状である。 抗菌薬適正使用を実践するためにもっとも大切なことは,主治医とASTがお互いに協力しあうことである。決して,主治医の処方権限や考えをASTが制限することではない。わが国のASTは,広域抗菌薬の届出・許可例,血液培養陽性例,耐性菌検出例,抗菌薬長期処方例などに対して,抗菌薬の選択が正しいか,変更・中止が必要ないかなどを継続して支援している場合が多い。従来の届出制・許可制より一歩進んで,より多くの症例に長期にわたり積極的に関与するようになってきている。しかしながら,抗菌薬による治療の開始から終了まで支援するためには,もう一歩進む必要があると考える。治療の開始からASTが支援するためには,主治医側からの積極的なコンサルテーションが必要になる。感染症を疑った時点でASTに相談してもらえれば,微生物学的検索も含めて抗菌薬選択から支援できることになる。つまり,ASTのみがいくら積極的に活動しても限界があるということである。各診療科の主治医も積極的にASTにコンサルテーションを行い,双方向ともに積極的になってこそ,はじめて真の抗菌薬適正使用が成立するのではないだろうか。これこそが私が想うアクティブ・コンサルテーションである。主治医とASTの双方向の協力体制の確立が,患者の予後を改善させ,さらには耐性菌の出現を抑えることが可能となると信じている。