特集1 超高齢社会における適正薬物療法の特質 ~ガイドラインの今日的役割と薬剤師の責務~
9.高齢者の生理機能変化を考慮した薬物投与設計
樋坂章博
1
1千葉大学大学院薬学研究院臨床薬理学研究室・教授
pp.1479-1484
発行日 2016年6月1日
Published Date 2016/6/1
DOI https://doi.org/10.20837/12016061479
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高齢者で薬物体内動態に関連する最も著しい変化は,薬物の腎排泄能力の低下である。75歳以上の後期高齢者では,若年成人の半分程度まで低下することが少なくない。従って,腎排泄される薬剤は高齢者では用量を十分に調節して用いる必要がある。腎排泄される薬剤は一般に水溶性が高く,静脈内投与で用いることが多い。例えばアミノグリコシドなどの静脈内投与の抗生物質などがそうであるが,そのような薬剤は入院中に処方されることが多く,また効果を確実にしなければならないので,基本的に専門医の管理の下で薬剤を選択し,用量を調整すべきである。一方で,もう1つの重要な薬物の代謝排泄経路である肝臓の機能の高齢者での変化は,実際には腎臓ほどには一律的に低下しない。ただし,外来の高齢者患者に処方される多くは経口薬であり,そのため「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」1)に注意喚起されているのもほとんどは経口薬である。その場合に体内動態の変化にとって重要なのは主に肝機能であり,一般的な立場からはそのような変化に,より注意が必要である。従って,本稿では肝排泄能力の変化と経口薬の高齢者の薬物動態変化について重点的に述べる。なお,高齢者では薬物血中濃度が同じであっても,感受性の変化で薬効や副作用の強度が変わることもあるが,ここでは薬物濃度の変化に要因を限定して述べる。