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はじめに
臓器移植治療には,術後の免疫抑制療法が必須とされる.タクロリムス(FK506)やシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害薬はほとんどの臓器移植後の免疫抑制剤として使用されており,その成績とともに臓器移植治療そのものの社会的認知度の向上に大きく貢献してきた.しかし,いずれの薬物も微量で強力な薬理効果を発揮する反面,狭い有効治療域を有することから,至適投与量設定を目的とした血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)が必要とされている.一方,頻回のTDMによる血中濃度コントロールが実施されているにもかかわらず,予後に直接影響する感染症の合併や重篤な副作用(中枢毒性,腎毒性,高血糖,高カリウム血症)を回避できない場合が多い1,2).
生体に投与されたタクロリムスやシクロスポリンなどの免疫抑制剤は,主として肝臓に発現する薬物代謝酵素チトクロムP450 IIIA4(CYP3A4)によって代謝されること,代謝物および未変化体薬物は引き続きP-糖蛋白質(MDR1/ABCB1遺伝子にコードされる)を介して胆汁中に排泄されることが知られている.また,CYP3A4やP-糖蛋白質は小腸粘膜にも発現しており,経口投与されたこれら薬物の吸収過程における代謝・排泄を媒介することによって,薬物の吸収障壁として協働的に機能することから,経口投与された免疫抑制剤の血中濃度を支配する重要な生体因子として位置付けられている3,4).したがって,小腸のP-糖蛋白質やCYP3A4の同一患者における発現変動や個人差に関する情報は,タクロリムスの個別投与設計を行ううえで有用な指標になると考えられる.
本稿では,生体肝移植治療におけるわれわれの臨床経験を含め,薬理ゲノミクスの側面から免疫抑制剤の個別化投与設計について論じる.
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