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大腸癌発生のメインルートはいったい何なのか?人間の各臓器に生じるさまざまな癌はほとんどが正常上皮から直接発生している.ところが大腸癌においては,正常粘膜から直接発生するいわゆる“de novo癌”と,1972年にMorsonらが提唱した“adenoma-carcinoma sequence”の大きな二つの学説が存在し,そのメインルート解明に関する議論が非常に盛んに行われていた.1980〜1990年代の頃である.しかし残念ながら現在に至るまで未だ一致した見解は得られていない.筆者は1985年に当時勤務する秋田赤十字病院において“de novo癌”である“Ⅱc病変”の生体での第1例目を発見した.それ以降も数多くの“Ⅱc病変”が秋田にとどまらず全国的に発見されるようになり,“幻の癌”もしくは“秋田の風土病”などと呼称されていた“大腸Ⅱc”は,徐々に“現実”のものと認知されるようになった.筆者が代表世話人として開催している「大腸Ⅱc研究会」も今年で30回目となり(2020年はCOVID-19の影響で休会),毎年のように全国から多くの“Ⅱc型早期大腸癌”が報告されてきた.1997年には大腸Ⅱc研究会を基盤とし,Ⅱc病変を含めた早期大腸癌を広く検討・啓蒙する雑誌として『早期大腸癌』(現『INTESTINE』)が創刊され,雑誌という形で情報を広く発信し続けている.無論,本邦だけにとどまらず,以前より大腸Ⅱc病変への関心が薄かった欧米諸国に対しても,論文・学会や海外講演,内視鏡ライブといった形で幾度となく啓蒙活動を続けてきた.とくに,1999年に発刊された「WHO Classification of Tumours:Pathology and Genetics of Tumours of the Digestive System」には筆者らの意見が数多く取り入れられ,大腸Ⅱc病変の内視鏡画像や病理組織像,pit pattern分類などが掲載された.WHO分類に大腸Ⅱc病変が取り上げられたのは初めてのことであり,その意義はきわめて大きかった.さらに2008年には筆者とフランスのLambert氏を代表として「Kyoto Workshop on Nonpolypoid Colorectal Neoplastic Lesions」というコンセンサス会議が開催された.そこでは世界各国の大腸癌の専門家が京都に集結し,大腸Ⅱc病変についての活発な議論が交わされた.大腸Ⅱc病変が進行癌の前駆病変としてきわめて重要であることを世界各国の先生方と討議し,その内容は『Gastrointestinal Endoscopy』誌で紹介され,その後世界へ広く発信されることとなった.
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